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春の樹(作:葵生りん)
脇にふんわりとしたぬくもりを感じながら、心地良い疲労感にとろとろとまどろんでいた。
ふと、あたたかな風が頬を撫で、ひらりとなにかが頬に舞い降りた。
頬についたものを手にとり、そっと重い瞼を持ち上げる。
それは、先の割れた優しい桃色の花びら一枚。
ぼんやりとそれを見つめていると、また、ふわりと風が吹いた。
その風に誘われるように目を向けた窓の外には、心を奪われるほど美しく咲き誇る、満開の桜。
風に乗ってひらりと舞い込んできた花びらが、脇で寝ていた赤ちゃんの鼻先にくっついた。
ぷしゅんっ!
ふ、ぇ……ふぇぇえぇん……
くしゃみをして泣きだした生まれたての男の子がかわいらしくて、たまらずに笑いながら抱き上げた。
そう、その抱き上げた瞬間に、決めた。
いっちばん最初の贈り物。
一生使い続ける大事なもの。
半年も前からずっとずっと悩んで、決められなかったけれど。
決めたよ。
君の名前は《春樹》
あの桜の樹のように、優しさとあたたかさで、人を癒してくれる子でありますように――。