第百十六話「冒険は止められない」
こんにちは、作者です。
やっと新しい執筆方法に馴染んで来ました。
とはいえ、何だかんだで時間が空いてしまいました、すいません。
今回の話は、本来はオズ達がアミマイに着いた時に入れる予定の話でした。
が、オズが列車強盗退治に時間をかけすぎ、また作者もこのエピソードをすっかり忘れていて、アミマイ到着が夕方になってしまったので、結局断念した話です。
とはいえ、お蔵入りにするのもなんなので、この辺りで、少し場面を変えて出しておきます。
時間軸は、オズが予選会から帰って来た後の、とある昼間です。
そう、ケイレルがテッサに到着するかしないかくらいの時間です。
それでは本編どうぞー。
予選会を無事突破した俺達は、久し振りにアミマイの地を踏んだ。
本選までしばしの休養だ。
アミマイはクリスマスイブだと言うのに、相変わらずの暑さだった。
アメリア、、、と言うより、この世界にも学校はあり、ニホンの義務教育と同じように冬休みのような物も存在する。
アミマイは、やはりというかアメリア連邦きってのリゾート地であるが故、いわゆる冬休みの大学生が集まって来て、クリスマスの乱痴気騒ぎを繰り広げようとしているらしく、街は最後に見たときよりも、一層賑やかさを増していた。
やれやれだなー。
とうとうクリスマスまでに、ランド王国に帰るのは、無理だったなー。
シルフィーとも会えなさそうだし。
俺はそんな事を思いつつ、アミマイの大通りを歩いていた。
雪や寒さが無い以外は、ニホンで見たクリスマスの光景と大差無い。
恋人達は肩を寄せあって闊歩しているし、街の至るところにサンタクロースがいる。
ちなみにサンタクロースは、お馴染みの赤い衣装だったが、半袖半ズボンだった。
軽装のサンタって、なんか気分出ないよね。
てか、この世界のサンタも赤いんだな。
ちくしょう、どいつもこいつもイチャイチャしやがって!
え?何で一人で出歩いてるかって?
レイナへの、クリスマスプレゼントを探しに来たのさ。
今夜は、クリスマスイブだ。
今夜くらいは事件の事は忘れて、ささやかながら、クリスマスパーティーをしようとビルに誘われたわけで、今夜はビルの家でワイアル達や、アーク達、ヘンリーさん等々、内輪だけのパーティーがあるのさ。
レイナはアンジーと出かけ、アークとトッドもまた、どこぞへと繰り出していた。
マックは、外交のコネを作りたいとかなんとか言って、ビルと一緒に行動している。
ワイアル達はかきいれ時だとか言って、夜までには終わる曲撃ちの仕事に行っていた。
ワイアル達と、アーク達は、今夜が初対面だよな。
そんな訳で、たまには一人もいいかなと思った俺は、のこのことプレゼントを探しに、独り身には辛いクリスマスの街へと決死の出撃をしに来たんだわ。
ま、やたら目につくカップル達を前に、激しく後悔中ではある(苦笑)
彼女がいるって言っても、傍目には一人寂しく歩く、冴えない男にしか見えないだろうしな。
さて、プレゼントっても、何がいかねえ。
個人的には、エロ下着とか送りたいが、アーク達に妙な勘繰りを受けかねないしなあ。
街に目を移すと、やたら派手な洋服を並べた店ばかりが目に飛び込んで来た。
開放的なレイナには、ぴったりなスタイルなんだけどな。
俺は思案に暮れながら、露店で買ったホットドックモドキをかじりつつ、しばらく宛てもなくプラプラと歩みを進めた。
その時だった。
パンパンと、乾いた音が街頭に響き渡った。
聞いた瞬間分かったよ。
銃声だよな。
よくもまあ次から次へと、厄介事に巻き込まれるもんだ。
自分の運命を呪いつつ、俺は銃声がした方へと足を早めた。
前方には、お決まりの様な人だかりが出来ていた。
丁度、繁華街とオフィス街の境目にあたる交差点の付近だった。
真冬とは思えない穏やかな日差しに、街路樹が揺れている。
周りには、高級ブティックや、高そうなレストランが軒を揃えて建ち並んでおり、今しがた通って来た道でも、テラス席で絶対タダでは無いような、ライムが入った水を美味しそうに飲む金持ちが溢れていた。
そのセレブ街の一角にあるドラッグストアの前で、騒ぎは起こっているようだった。
ドラッグストアと言っても、看板にそう書いてあるから分かるだけで、看板が違ったら高級用品店か何かと見紛うばかりの建物だけどね。
また、銃声が聞こえる。
人出も多い繁華街は、さながらパニックに陥らんはかりだった。
こちらへと、逃げて来る家族連れと思わしき一団と目が合った。
両親と、子供が二人見えた。
俺は、先頭にいる父親と思わしきおっさんに声をかけてみた。
「どうしたんですか?」
久し振りに、バッヂをちらつかせながら口を開く俺。
この瞬間だけは、何度やってもやめられないよね。
顔がニヤつきそうになるのを、必死で堪えた。
おっさんは、一瞬訝しげな顔をしたが、バッヂを見て安堵の表情に変わった。
「ああ、あんた、バウンサーか、助かった。またヤク中だよ。最近こういう輩ばかりだ。ドラッグストアの前で、クスリをよこせって騒いでるんだよ。幸いまだ怪我人は出てないが、やたらめったら撃ちまくってるから、たまらず逃げて来たのさ 」
おっさんは怯える子供の頭を撫でながら答えてくれた。
またって事は、頻発してんのか。
ハリウッドジャムかな。
なんにせよ昼間っからがんぎまりとはな、世も末だねえ。
もう少ししたら、モヒカン姿で「ひゃっはー」とか言うのが出て来かねないよな。
そうなったら、「お前は既に死んでいる」とか言ってやろーっと。
いかん、話が脱線した。
とりあえず、おっさんに相づちを打っておかないとね。
「そうですか。それにしても、ドラッグストアって、、、。確かに薬は売ってるけど、クスリは売ってないですよね。ま、あとは任せて下さい。早くここから避難して、子供さんを安心させてあげてください」
思わず、下らない事を言ってしまった。
ま、文字じゃなきゃ伝わらないだろうけどね(苦笑)
おっさんは少しキョトンとしたが、意味は理解したらしく。
「はは、違げーねーや。あんた余裕かい?厄介事に慣れているみたいだな。ありがとう。後は頼むわ」
苦笑混じりにそう言うと、子供の手を引いて、俺が来た方へと逃げて行った。
いやまあ、慣れてると言えばそうだけどさ、元々生来の呑気者だからさ。
緊張感に欠けると、よくイットウに怒られたな。
そういや、レイナの父ちゃんも他人とは思えない程緊張感の無い人だったな。
無事バレンシアに帰れたのかな?
目の前の騒乱などどこ吹く風とばかりに、俺はタバコに火を付けながら、人混みを掻き分けて、現場にたどり着いた。
現場では、先程のおっさん達のように逃げ惑う人達と、物見遊山気分で成り行きを遠巻きに見守る野次馬が錯綜していた。
見ると、確かに店先に銃を持った男が立っており、なにやらガナリたてている。
目は血走っていて、口の端に泡が飛び散っていた。
完全にキマってるなこれ。
「おるぅぅぅらぁぁぁぁ、ク、クスリよこせやぁぁぁ、おぶれ、ぼらうなぁぁぁ!!」
ちょっと何言ってっか解んない。
人に向けて銃を撃たない程の理性と、クスリは薬屋に売ってるという、ちょっとズレた常識だけは保っているようで、盛んに店の中に叫びつつ、空に向けて銃を発砲していた。
やれやれ、今はまだ怪我人が出ないけど、埒が明かなくなってきたら何し出すか分からないな。
「はいはい。バウンサーの人が来ましたよー。大人しく逮捕されなさーい」
俺は男に向かって、お馴染みの調子で話しかけてみた。
「おるぅあ?クスリよこせー!」
男には聞こえなかったようで、俺には目もくれず、相変わらずご乱心の様子だった。
周りの人々には聞こえたようで、幾人かの人達が俺を盾にするように、俺の後方に移動して来た。
シカトですかー?
「シカトかよ!本官をシカトするとはいい度胸じゃないかー!逮捕だー!」
俺は某七つ子が主人公のレトロ漫画に出てくる警官の様に、銃に手をかけながら叫んだ。
「くーすぅーりぃぃぃぃぃぃ」
ジョ○ョに出てくる人かよ!
ヤク中は再びシカトしやがった。
俺の朴穏とした雰囲気に和んだのか、周りの群衆から失笑が漏れた。
も、もういいよね?
発砲してやろう。
俺をシカトするやつは、死刑!
笑われたのが俺なのか、このどうにもしまらない状況なのかは分からなかったが、頭に来た俺は、銃を抜こうとした。
その時だった。
風を切り裂く音がした。
何か、しなやかではあるが、強靭な物が空気をかき分けて来る感じが伝わって来た。
ギュバチーン!
金属に何かが絡み付いたような音と共に、ヤク中の手から銃が飛んだ。
いや、正確には、飛んで来た何かが、ヤク中の銃を掠め取って行った様に見えた。
な、何だ?
「お、おるああ?おれえええ?」
驚愕したのは俺だけじゃないようで、ヤク中はご覧の様に、言葉にならない叫びをあげていて、周りの野次馬には何が起こったのかさえ見えてないようだった。
それほど、飛んで来た何かは速かった。
次いで、再びそれは飛んで来た。
グルグルグルグル。
「お、おろろろろろ????えうれあ?」
瞬く間に、ヤク中にまとわりついたそれは、クルクルと丸まり、ヤク中の自由を奪った。
膝までがんじがらめになったヤク中は、地面に倒れてもがいている。
なんだあれ?
ツタ?縄?
い、いや、、あれは、、、!
それは、女王様が持っている、、、いや、、別に女王様だけが持っている訳じゃないけど。
そう、、、ムチだった。
陽光に煌めく黒い光沢を持ったムチ。
ただのなめした縄じゃない、金属の様な表面を持った代物だった。
誰が?
「まったく、、、昼間っからキメとるんじゃない!いや、夜も駄目だけどな!って、俺の言うことを理解してるのか?駄目だな、完全に飛んでやがる」
赤い目を白黒させているヤク中に話しかけながら、近づいて来る男。
おっちゃんより遥かに大きな身体。
本気モードの村長に匹敵するような体躯を持った男だった。
頭に被ったカウボーイハットを脱いで、暑さを紛らせるように顔を扇いでいる。
もう片方の手には、ヤク中から繋がっているムチの柄元が握られていた。
ノッシノッシと身体が揺れる。
帽子が無くなった頭には、金髪が風に靡いている。
太い眉毛、優しげにも、鋭くも見える大きく切れ長の青い瞳を持つ目。
高い鼻、、そこから口にかけて豊かに蓄えられた髪と同じ色の髭が見えた。
ま、まさか、テキサスの荒馬、不沈艦、ハ、ハンセン!?
い、いや、、、待てよ、知ってるぞこの人。
茶色の制服がパンパンに膨れている、でっぷりと腹は出ていたが、胸筋や、上腕二頭筋は隆々としていた。
やっぱ、ハンセン?
って違うな。
そう、その男はビルの昔馴染みにして、アーク達新米保安官の教育係でもある、スタン保安官だった。
スタン、、、名字なんだっけ?聞いてたっけか?
まさかハンセンじゃないよね。
にしても、出たよ、リアルハンセン!
てか、あのムチは何なんだ?
この人、もしかして、めっちゃ強いんじゃ?
やがて、今の芸当など朝飯前だというように、涼しげな目をしたスタンは、訳も分からないまま、自由を奪われてのたうち回っているヤク中に、同情とも、侮蔑ともとれるような微笑を浮かべながら、ゆっくりとヤク中の傍に到着した。
か、かっこいいー!
ウイー!とかやってくれないかなー。
スタンは、足でストンピング、、、じゃなくて、ヤク中が最後の抵抗をしているのを踏み止めつつ、こちらを向いた。
「モズ、あ、いやオズだったな。君程の男が怒りにまかせて街中で銃を撃とうとしてはいかんな。まあ、万が一にも的は外さんのだろうが、こういうのは市民に不安を与えるからな。穏便に済ませないといけないのさ」
あ、見てらっしゃったのね。
確かに、市民に当たったら大変ですね。
けど、穏便って(苦笑)
ムチでシバき倒すのが穏便なんだ。
さすがハンセン。
やることがテキサス流だね。
「すいません。つい」
俺は頭を掻きながら、スタンの方へ向かった。
スタンは、ヤク中をゴロゴロと転がして、うつ伏せにすると、後ろ手に手錠をかけていた。
「よしっと。しかし君は神経が図太いのか、呑気なのか、頭に血が上って銃を抜こうとした時以外は、まったく動じる様子が無かったな」
感心した表情でスタンが話しかけて来た。
「ま、まあ、慣れてますから、どこへ行っても、何をやっても、磁石のようにトラブルに巻き込まれますんで」
「ははは、そうか。冒険屋じゃなくて保安官になるべきだったな」
笑うスタンの首筋に、汗が光っている。
やれやれと言った表情で、パタパタと帽子を動かしていた。
仕事以外だと、動くのも億劫だという感じだ。
それにしても、この人は幾つなんだろう?
見た感じはビルよりも年上に見えるけど。
「保安官にも憧れますけどね。根無し草が性に合ってますんで、冒険屋が天職ですね。それにしてもスタンさんは幾つなんですか?ビルよりも年上に見えるんですが。普通は定年退職とかあるんじゃないんですか?」
スタンは俺の言葉を聞いて、フフフと笑いながら口を開いた。
「まあな。ビルよりも年上だ。見た目はな。ややこしい話だが、本来はビルのほうが年上だが。まあ社会通念上は俺のほうが年上に見えるだろう」
うーむ。
謎かけみたいな言い方だな。
そういえば、ビルってカイロスと一緒に勇者やってたんだっけか。
「ビルやカイロスは規格外ですからねえ」
「ははは。あのじいさんか。確か君はビルの要請で、カイロス殿が寄越した勇者達の助っ人だったんだよな」
「そうです。人使いの荒いじじいで」
「わはは。そうだろうな。ビルが未だに頭の上がらない人物だからな」
そんな会話を交わすうちに、結局年齢の話は煙に撒かれてしまったな。
しばらくすると、誰かが通報したのか、今ごろになって例の空飛ぶパト馬が、飛来した。
やや遅れて、地上部隊も到着する。
遅いよ!
事件も一段落したということで、野次馬は掃けつつあった。
一帯は普段の落ち着きを取り戻して来ており、今は保安官達が、店の店主や、野次馬達に目撃の聴取を行っている。
俺は日陰に移動して、保安官が持ってきてくれた冷たいコーヒーを飲んでいた。
やがて、事後処理を保安官達とやっていたスタンがこちらへやって来た。
「すまんな、付き合わせて。一応目撃者として協力してくれ。最近は治安も悪くなって来ていてな、色々と捜査方法も細かくなっていてな。こういうのはおざなりにできないのさ」
お役所仕事というやつだろう。
保安局は頑張ってますというアピールなんだろうが、ビルやスタンの意思では無いような気がした。
現場主義の人間の考える事じゃないよな。
色々大変なんだろうね。
「構いませんよ、お偉いさんの人気取りに付き合わされる方は堪ったもんじゃないですよね」
「ははは。よく分かってるじゃないか。大統領選も近いんだ。候補者は少しでも国民の心証を良くしようと必死なのさ」
なるほどね。
てか、大統領選があるんだ。
少し興味が湧いたので、その事について尋ねてみようと思った時、スタンの後ろから別の保安官がやって来た。
若い保安官はスタンに話しかけている。
「一応現場の捜査は終わりました。目撃証言の聴取など、面倒な事はこちらで引き受けます」
「そうか?悪いな」
言葉とは裏腹な、スタンの少しも悪びれない返事ではあったが、若い保安官は気を悪くする様子もなく屈託の無い笑みを返した。
「あなたにそんな仕事はさせられませんので。書類を作っているより、現場に出ていらっしゃるほうがお似合いです」
確かにな、大きな身体で机の前で書き物をしている姿なんて想像出来ない。
それに、スタンは下の人間に慕われているようだ。
「わはは。確かにな。ではお言葉に甘えよう。それに、最近は老眼でな。細かい字を書くのが面倒でな」
「ははは。まだ引退しないで下さいね。テイラー保安官。自分はこれで失礼します」
若い保安官は、スタンに敬礼をして去って行った。
そうか、スタンの名字はテイラーっていうのか。
俺と同じだねーとか言って。
おっちゃん達は元気かなあ。
少しランド村を恋しく思いながら、俺はコーヒーを飲み干して、スタンに向き直った。
「スタンって、名字はテイラーって言うんですか?」
「ん?ああ、そうだ。ありふれた名前だろう?」
「え?あ、あ、まあ。けど俺の名字もテイラーって言うんですよ」
俺の言葉に、スタンは少し眉毛を上げた。
「そうなのか。これはまた奇妙な縁だな。君はランド王国から来たそうだが、生まれもそこか?」
「いえ、生まれはもっと遠く離れた所です。諸事情によって、そこにいられなくなり、この大陸へやって来ました。行き倒れになるなんて失態を犯していた所へ通りがかったのが、今の俺の義理の父でして、彼の名字がテイラーなんです」
「そうなのか。苦労したんだな。そうか、君はこの大陸の出身じゃないのか。俺もだ」
「そうなんですか?」
「ああ。十五年程前に西の大陸からやって来たのさ」
「そうだったんですか。あれ?スタンって独身ですか?ご家族の方とかいないんですか?」
スタンは少し遠い目になった。
「んん?ま、まあ。家族は、、いたがな。。。が、、色々あってな、カミサンにも息子夫婦にも先立たれてな。そ、それにしても、行き倒れの見知らぬ男を助けるとはな、今時できた男もいるもんだな」
あまり触れて欲しくない話だったのか、スタンは話をそらした。
そうか、、、家族に先立たれたのか。
ま、俺も同じだけどねー。
「そうそう。見た目は髭もじゃの冴えないおっちゃんなんですけどね。これがとてもいい人でして。知りませんか?昔は荒野の豪槍って呼ばれた有名人だったんですよ」
スタンはキョトンとした。
あ、、そうか、スタンがこの大陸にやって来たのは十五年前って言ったっけ?
その時はもうエレーナが生まれているよな。
おっちゃんはセミリタイヤした後か。
「ランデル・テイラーっていう人です。今はただの猟師ですが、昔は大陸に名を轟かせた冒険屋だったんですよ」
名前を聞いてスタンの顔色が変わった。
こんな驚いた表情、さっきの捕り物の時は少しも見せなかったのに、、、。
「ラ、ランデル・テイラーだと?」
「そうです、、知り合いですか?」
呆然としているスタンが、俺の言葉に辛うじて我に返った。
「い、いや、、知り合いというか、、まさかな、、、そんな訳はないはず、、、」
ん???
あ、そうだ。
良いものがある。
俺は四次元ポケッ、、、違う、アイテムボックスから、おっちゃんTシャツを取り出した。
あの時自分用にも買ったやつだ。
だって、、昔のおっちゃん格好いいじゃん。
いきなり目の前に現れたTシャツに、スタンは目を丸くしている。
俺はスタンにTシャツを広げて見せた。
「この人ですよ。表裏で過去と現在の姿が描かれています。ま、、今はただのウサギ狩りのおっちゃんですけどねー」
スタンは、俺が裏表を交互に見せているTシャツをじっと見ていたが、、やがて、それに震える手を伸ばした。
俺は求められるまま、スタンにTシャツを渡した。
どうしたっていうんだろう?
スタンはもはや言葉も発しない。
荒野の豪槍時代のおっちゃんの姿を、まばたきもしないで食い入る様に見つめていた。
「彼は、どこの生まれだ?肉親はいるのか?」
先程からの豪快さは影を潜めていた。
蚊の鳴くような声を、スタンはやっと絞り出した。
「え?おっちゃんはどこの生まれ?いやー、それは聞いたことないですねえ。流れ流れてランド王国までやって来たとか言ってました。肉親といえば、、両親は物心付く前に亡くなったと聞きましたよ。それで祖父に育てられたとか、、そうそう、槍の使い方は祖父に習ったとか、、、祖父、、、祖父?、、、ま、まさか、、、」
「生きていたのか、、、」
俺に言っているような、独り言のような、、そんなスタンの言葉だった。
うそだろー!?
とか、いつもなら叫ぶ所だが、あまりに数奇な運命過ぎて俺も時間が止まった。
スタンはTシャツを覗き込んで下を向いた。
そこに水滴が一つポタリと落ちた。
スタンは顔を伏せているので、泣いていたのか、汗だったのかは分からない。
だが、今日のアミマイは暑かったが、日陰には心地よい風が吹いており、俺たちの立っている場所は、まさにその日陰だったと言っておこう。
しばしの時間が流れた。
ふいにスタンが顔を上げた。
いつものスタンがいた。
「わはははははは!!!生きていたのかあの野郎!槍一本で世界を渡ってやるとか戯れ言を残して家を出て行きおって。音信不通になったまま、どこぞで野垂れ死にしているかと思っていたが。荒野の豪槍なんて大層な通り名が付くほどの男になっておったのか。わはははは。天晴れだ!オズ、礼を言う。君が来てくれたおかげで、人に自己紹介をする時に、孫が一人いると胸を張って言える」
満面の笑顔だった。
普通もっとしみじみ言う所なんだろうが、、あの粗野なおっちゃんのじいちゃんだからな。
これでいいんだろうよ。
いやはや。
そうか、、、確かおっちゃんも、祖父は今でもどっかで生きているはずだとか言っていたっけね。
おっちゃん!
じいちゃんは生きていたよ。
というか、、すこぶる元気で、強いじいちゃんだったぞー!!
俺は、シャツをひっくり返して、今のおっちゃんの姿を見て苦笑しているスタンに話しかけた。
もう一つ伝えたい事があったのさ。
「スタン!」
「ん?ああ、すまん。すっかり普通のオヤジになったもんだと思ってな」
スタンは暴言を吐きながらも、しみじみとおっちゃんの姿に目を細くしていた。
「スタン、自己紹介に加えるのは、孫が一人じゃなくて、孫夫婦とひ孫が一人、そして義理のひ孫が一人と答えなくちゃいけないですよ!」
スタンの目が大きく見開かれた。
「な!?今何と?まさか、、ランデルのやつ、結婚しているのか?あいつが?」
俺は巨体をひっくり返さんばかりに驚いているスタンに、カイロスから聞いた、おっちゃんがテッサにやって来てからの話をした。
荒野の豪槍として名を馳せた事。
ランド村にゴブリン退治に行って、どこぞのバカと同じように行き倒れた事。
ローラに拾われて、レグルスの所で介抱されて過ごした事。
ここでレグルスの名前にもうひと驚きするスタンがいた。
その後、納屋だかどこだかで、ローラを押し倒した事。
ちなみにスタンは腹を抱えて笑っていた。
二人の間にエレーナが生まれた事。
冒険屋を辞めて、家族を守る為に村に住むことを決意した事。
スタンは何も言わず、ただただ優しげな眼差しでそのくだりを聞いていた。
そして、俺がやって来た事。
エレーナがお嫁さんに行った事。
弟子が出来た事。
最近その弟子の為に冒険屋に限定復帰して、友人のテリーさんと二人でワイバーンを狩り、まだまだやれることを示して、嬉しそうにしていた事。
Tシャツになった事。
などなど、、、俺が知っている事は大体話をした。
どうやら知らない事もあるが、、それは俺は知らないことになっているらしい。
ん?俺は何を言っているのか、、まあいいや。
スタンは後半はずっと、うんうんと頷いて聞いていた。
ニホンで見た家族ドラマに出てくるような、孫の話を縁側で聞くおじいちゃんと同じ顔をしていた。
それはとても穏やかで、優しげな顔だった。
話を聞き終えたスタンがようやく口を開いた。
「そうか、あいつは人並みの幸せを手に入れたということか、、、。ふふふ。なるほどな、、、やれやれ、俺の育て方は間違っていたが、奴なりに色々と成長したんだな」
スタンの育てかたが間違っていたのかどうかは、おっちゃんに聞いてみないと分からない。
けど、おっちゃんが今まで生きて来れたのは、恐らくはスタンが仕込んだ槍術のお陰だ。
それに、遺伝子は争えない。
こうやって見ると、やっぱりスタンとおっちゃんは血が繋がっているなと感じた。
スタンと過ごした短い時間でもそう思うんだから、かなり濃い血なんだろうよ。
「とりあえず、おっちゃんは、とても素晴らしい人で、尊敬に値する男で、父親で、武人だというのは間違いないです」
「そうか。そうかそうか」
スタンはとても嬉しそうだった。
「いつかランド村まで来てくださいね。エレーナはテッサの商家に嫁いだんですけど、元気にやっていますよ。頑張り屋な所は父親譲りですね」
「分かった。死ぬ前に一度は訪れてみよう」
いやいや、まだまだ死なないでしょ?
スタンの年齢は、おっちゃんの年齢から計算しても、その見た目とは合わない。
カイロスほどじゃないが、こんな元気なじいさんは見たことない。
「孫やひ孫の顔を見るまでは、死亡フラグは立てられないですね」
「死亡フラグって何だ?死ぬって事なら、俺はまだまだ死ぬ訳にはいかん。ランデルがくたばる前に、一度手合わせしてみたいもんだ。どれだけ強くなったのかな」
そう言って高らかに笑うスタン。
くたばる前にって、、、おっちゃんより長生きする気満々だよこの人(苦笑)
それに手合わせって、、あんたはアンジーか!
もー、武人の考えている事はよく分からん。
「さて、俺はそろそろ仕事に戻るよ。素敵なクリスマスプレゼントをありがとう。君も今夜は来るんだろう?楽しみにしているよ」
スタンはそう言って、帽子を被った。
現場が好きなんだろうなー。
「あ、スタン。これ、話だけじゃなくて、クリスマスプレゼントという事で」
俺はおっちゃんTシャツをスタンに渡した。
勿論俺のサイズなので着ることは出来ないけど、これで孫の顔をいつでも見られる。
「いいのか?す、すまん。いや、、ありがとう」
スタンは気持ちよく受け取ってくれた。
彼は大事そうに皮の鞄にそれをしまうと、俺に手を振り、肩を揺らして去って行った。
おっちゃんと同じ背中だな。
そう、その背中はおっちゃんのそれと良く似ていた。
来たときよりも軽い足取り、どこか若返ったような印象も受ける、荒野の豪槍の祖父にしてテキサスの荒馬の背中だった。
いや、おっちゃんが荒野の豪槍なら、スタンはテキサスの豪鞭って感じかね。
買い物に出ただけなんだけど、何だかとんでもない出会いがあったな。
ほらね、冒険屋はやめられないだろう
冒険をしてると、目のさめるような出会いがあるもんだ。
なんてね。。。
い、いかん!
レイナへのプレゼントを探さないと。
俺はスタンとは裏腹に、せかせかした足取りでその場を後にした。
読んでいただきまして、誠にありがとうございました。
はい。
スタンはランデルの祖父です。
作者の設定ノートにも書いてあり、エピソードまで作ったのに、何故か忘れていました。
アミマイ到着編を書き上げたあとに、「あ、、やっちゃった」と思ったんですけど、後の祭りでした。
しょうがないので、スタンは、ビルの繋がりとして、普通に登場する事になったんですけどねー。
とはいえ、設定は存在しますので。
スタンが初登場時に鞭を持っていたり、オズが「おっちゃんに、似ている」とスタンを見て思っていたり。オズがアミマイのガンナー試験の時に、ジャックにフルネームを名乗った時に「テイラーというのか」と返されたり、おっちゃんがパラディンから奪い返した鞭を上手く使えたりしたのは、その設定が生き続けていたからです。
ここで伏線を回収できました。
少ししか活躍していませんが、スタンの強さが垣間見える話になっていれば幸いです。
ちなみにスタンのモデルは、、そのまんま、オズが作中でも言っていますがスタン・ハンセンです。
ハンセンさん、リング上では凶暴で、よくブレーキの壊れたダンプカーと揶揄されますが、実は作者はリング外でハンセンさんに会った事がありまして。
とても優しい人でした。
笑うと優しい目になるんですよー。
老眼鏡をかけて小説か何かを読んでいる姿は、プロレスラーとは思えない感じでした。
というわけで、ランデルの祖父が登場しました。
もう一、二話を挟んで、いよいよアメリアでの仕事も佳境に入って行きます。
それでは次回、ご期待ください。
あ、、いつまでクリスマスやってるんだとか言わないでください(苦笑)
大変申し訳ありませんです。




