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彼と彼女の短編シリーズ

太陽と月

作者: 紅月

 始まりは彼の一言からだった。

「太陽は働きすぎだと思う」

「はい?」

 その時私が読んでいたのは『北風と太陽』という割と有名な童話だ。ふと読みたくなって、近くの図書館で彼に借りてきてもらったんだけど……。急にどうしたのかしら。

 反射的に聞き返した私に彼は勢いよく語り始めた。

「夏は朝の四時に日の出、夜の七時に日の入りするとする。冬は朝の六時に日の出、夕方の五時に日の入りするとした場合、太陽の方が四時間多く空にあると言える」

「でも……月は昼でも空にあるときがあるじゃない」

 今日だってそう。空には半分の月が昇っている。白い月は今日は空に浮かび上がるように見える。青い空、雲一つないそこにくっきりと浮かぶ月は少し違和感を感じざるを得ない。

 彼はその時間は考えない、と言って首を振り、話を続けた。

「春と秋は同じ時間に日の出日の入りしているとして、さらに四季が同じ日数ずつあった場合、太陽は月よりも一日当たり二時間も長く空にいることになるよね」

 その考えにはついていけないながらも、どうにかして私も計算についていくことにする。

 そうなると一年もすれば七百三十時間分だけ太陽の方が月よりも空に長い間あることになる。というのはわかった。でも、それがどうしたというのかしら。

 そう尋ねるとと彼は言った。

「つまりだ、太陽は少しくらい休んだっていいはずなんだよ!!」

「……はい?」

「まだ梅雨が明けたばかりだというのにこの暑さ。毎日が猛暑日、熱帯夜。道路を歩けばコンクリートから放出される熱に汗を流すし、冷房が効いているはずの学校は設定温度と人口密度のおかげで涼しいなんて感じない。図書館は冷房狙いの女子高生どもがうざったいし。蝉の鳴き声で余計に暑さを感じる」

 つまりはこの暑さに辟易している彼が唐突に、脈絡もなく思いついたことだったらしい。

 私は閉じた童話の表紙をじっくり眺め、本気で嫌そうにしている彼に向って聞いてみることにする。単なる好奇心。他意はない、はず。

「北風、呼びたい?」

「もちろん」

「暑いのと寒いのならどっちがいい?」

「寒い方。着込めば耐えられるし」

 今熱いから寒い方がいい、と言わないあたり子供でないのか子供なのかよくわからないけれど、少なくとも夏が嫌いなことはよくわかった。

 ちなみに私は四季の好き嫌いはない。病院に住んでいる私にとっては外の気温に関わらず常に適度な温度を保った中にいるからで、せいぜい冬の暖房がすこし暑い、ぐらいでしかない。それは薄着をすることで簡単に解決できる。

「でも、太陽は自分でエネルギー、光を生み出しているけれど、月はその光を反射しているだけじゃない。働くも何もないと思うのだけど」

「それは関係ない。空にあってそれなりの光を放ってれば大差はない」

 子供もびっくりな高校生の理屈だった。いくら子供でもそんなことは言わない。

 よっぽどこの暑い季節が嫌いと見える。

 そのあとも彼はしばらくぼやいてから帰る、と言って立ち上がった。影が伸び始めた午後六時。どうやらここで少しでも外の熱気が落ち着くのを待っていたかのような時間だった。

「そうそう、失念してるみたいだけど」

 私は出て行こうとする彼に少しだけ嫌味を言うことにする。

「私は年中暑くもなく、夏は適度に涼しい病院(ここ)に住んでいるのよ?」

 その時の彼の顔は何とも言えない顔をしていた。

 去年の夏。今の季節とは真逆の、暑い夏の日のことだったなあ、と私は手に持った童話の本を見ながらそう思った。

 梅雨明けになったようで一気に暑くなりましたね。誰か助けてください……。

 部屋にうちわくらいしか涼む方法がない自分にとっては夏は本当に暮らしづらい季節です。本当に。夕方しか風は通らないし、夜になれば無風で汗が流れていくのがリアルにわかるそんな季節の到来です。

 長期休みや祭りなどイベントが多い季節ですけど、ぶっちゃけ冷房の効いた学校にいたいです。

 以上あとがきでした。では。


2010.07.10 紅月

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