まどろみ
ディディエス側の裏事情(笑)。初めの方の話です。
ごそごそと寝返りを打つ音に目が覚めた。ちらりと視線を向けた先、鞄一つ挟んだ隣に小柄な塊がある。胎児のように身体を丸めて、ディディエスに背を向けていた。動いた拍子にずれたのだろう、掛け布に手を伸ばしそっと直してやりながら、彼はここ最近の己の行動を反芻した。
初日に彼女を背に乗せたら落馬しそうになった。その経験から速度を抑え、極力揺れないよう走り方も工夫した。多少足に負担が掛かるが、この程度なら特に問題はない。昨夜は腰が痛いと呻いていたので、今日はもう少し気を遣ってやりたいと思う。
遅れがちな彼のために群れ全体でスピードを調整し、雨の日は移動せずテントで休むようになった。ユキノはじっとしている方が好きなのか、テントの中にいる間は寛いでいる様子だった。ディディエスは退屈で仕方なかったが、ちょっかいを掛けて鬱陶しがられる内に学習し、彼女がそっとして欲しいと思っている時、そうでない時を肌で感じ取れるようになってきた。
テントの中で本が読めたらいいのにという彼女の願いを叶えるべく長に掛け合ったところ、群れの所持金を任せてもらえるようになった。彼は早速ランプを与えることにした。仕事の完了を報告するために町に入る長に同行し、雑貨店で見付けたはいいものの、自分で使ったことがないのでどれがいいのかわからない。本人に聞くのが一番だと思い、一旦外まで戻って、ユキノを連れて再び店へ。幸い彼女が気に入った物があったのでそれを購入した。他の物より値段が高かったが、他に急ぎで買い足す必要がある物はなかったため、喜んでくれるのであれば構わなかった。
また、ユキノは足元に生えている草が食べられなかった。なのでしばらくはアカンザが適当に買ってきた野菜を食べさせていたが、これから彼女の食事を用意するのは彼の仕事になった。果物が欲しいと言っていたので、彼は食べたことはなかったが、美味しそうな物を買うつもりだ。値段が高いものはきっとそうなのだろう。
彼女の好意はわかりにくいが、初対面時の情熱的な一面を考えれば、約束を違えなければずっと寄り添ってくれるはずだ。今はまだ知り合ってから日が浅いため、彼女も遠慮しているのかもしれない。
ディディエスは腕を伸ばしてユキノの頭を一撫ですると、目を閉じた。彼女が朝の散歩に繰り出すまでもう少し時間がある。それまでの間、喜ぶ姿を頭の中で想像しながら、静かに身体を休めるのだった。