本の紹介42『剽窃新潮』 いしいひさいち/著
4コマ漫画の名手が比類なきユーモアで炙り出す出版界のリアル(?)
新潮社が発行している「小説新潮」という雑誌に連載されているギャグ4コマ漫画作品です。
掲載誌をもじったタイトルがもう凄いですね。このタイトルだけでまずは1本取られた気持ちになります。こういうタイトルが許されなくなったら、本当の意味で出版界の未来が潰える気がしますね。
主人公は50年余り純文学を描き続けている売れない小説家なのですが、売れない作家を敬遠する担当編集や出版社(主に営業部)との腹の探り合いや、他の作家との攻防(意地の張り合いとも言う)がユーモアに描かれている作品となっています。
一読してオチの意味がスッと分からなかった話もあるのですが、読むたびに新たな発見をするのもこういった作品の楽しみ方ですね。
漫画を読んでいて笑うことが最近めっきり減っていたのですが、本作に出会って久しぶりに自然な笑いというものを取り戻した気がします。
いしいひさいち先生の作品といえば、新聞連載の「ののちゃん」が有名ですが、現代思想家を題材にした作品や、ミュージシャンを主人公にしたストーリー漫画など、引き出しが豊富なことに驚かされます。4コマ漫画作品においても、4コマという一つの作品単位の背景には実に多様な要素が織り込まれており、そこが読者を惹きつける魅力になっていると感じます。
非常に博学な方だと思うのですが、殊更にそれを作品上で表面化させず、サラッと書いて自然に読者にボールを投げるといった上品な作品作りをされているように感じます。
ひと頃から世の中に4コマ漫画が溢れるようになりましたが、完成度という点でいしいひさいち作品を超えるものには出会ったことがありません。
4コマ漫画を読む場合、起承転結がどうとか、オチがどうとか言った形式ばった点には拘りはないのですが、明らかに一連のストーリーを4コマ単位に分割したとしか思えない作品にぶつかると怒りを覚えてしまいます。4コマ漫画というスタイルを選択するのなら、それなりの理屈を持って欲しいと感じる次第。具体的なタイトルは挙げませんが、そう言った作品は思った以上に世に出回っているので、皆さんも心当たりがあるかもしれません。
作家や出版界を題材にした作品で、繰り広げられるネタも出版不況や作家同士のヒエラルキー争いと言ったものが多いのですが、そこに描かれる心理や組織の構造は広く一般にも当てはまるような普遍的な内容であることに気付かされます。
他人事のように眺めていたら、不意に自分の方にもその矛先が向くような感覚を味わうことが多々あるのですが、その観察力というか洞察力には舌を巻くばかりです。終わり




