第9話 ピースメーカーの仕事①
ダンジョンの現場までは、マナ自動車での移動だ。
住所を打ちこめば、自動で行先まで運転してくれる。
運転席にいるルクスは、ただの飾りである。
「そういえば、スキルオーブで完全解毒・Sってどのくらいの値段ですかね?」
武器がないことは忘れたまま、ルクスは昨日得たスキルを思い出した。
三人のうちルクスが最年長だが、先輩呼びと敬語は魂まで鍛えられている。
「解毒じゃなくて、完全解毒……? しかもSなんて、買うなら三百万以上じゃないの? ゲボクのくせに、そんなスキルオーブが欲しいの?」
「Sってことは、カウントダウンが凄い早いから出回らないんじゃないか?」
ネオはアリアと離れたことで、超ブラコンモードから脱する。
「さん……三百万……売ってたら三百万……嘘でしょ……」
ルクスの目が虚ろになった。
口から魂が飛び出しているルクスを見たネオが、ドラゴン・アイで気が付く。
ルクスのスキル一覧に、完全解毒・Sが追加されている。
ネオはドラゴニュートハーフのお陰で、鑑定より優れた目を持っていた。
「ルクス、いつの間に完全解毒・Sのスキルを手にいれたんだい?」
「そうなの? 再生するんだからゲボクに必要そうにないのに?」
酷い言いようだが、ルクスはこのレベルにはもう反応もしない。
「昨日巻き込まれたダンジョンで出てきたんですよぉぉ。アイテムボックスに入れて持ち帰ろうとしたのに、時間が止まらなくってぇ」
「スキルオーブにアイテムボックスが通用するわけないじゃない。マナ石に特殊な魔法陣をセットした、高い箱に入れないと持ち歩けないわよ。何年ピースメーカーやってるのかしら、相変わらずバカゲボクね」
「ううう」
現場近くに到着して、車は自動で止まった。
ユーナは広い車内で、ネオは外で装備を身に着ける。
ダンジョン攻略する探索者たちは、もっと重装備だが、ピースメーカーは救助が優先だ。
周囲は危険地帯として立ち入り禁止のテープが張られている。
三人は、ダンジョン発生局にピースメーカーの免許証を見せると、オレンジ色のダンジョンに踏み込んだ。
発生から十五分。
迷子ならば大抵、ダンジョンの入り口にいるはずだ。
「”幼命探知”!」
ユーナとルクスは、ピースメーカー必須スキルを発動させた。
未成年に限定したスキルだが、ダンジョンのどこに子供がいるのか把握できるスキルだ。
ネオだけは、すべてドラゴン・アイでその辺をまかなっている。
「なんか、結構進んでません? 無事かなぁ」
「人間の子供なら、僕たち半妖ほどは襲われにくいと思うが」
「案外、イキがったガキじゃない? 手間とらせるわね」
「それを言ったら、仕事がなくなっちゃうじゃないですか……」
幼命探知によると、子供はそれなりに奥に向かって進んでいた。
単発型に巻き込まれて、パニックのあまり走り回る子供もいたケースもあるので、今回もそうかもしれない。
そこで、ようやくルクスは自分が武器がないことに気づいた。
鈍さ、極まっている。
「ジャイアントボアだ! 行くよ、ユーナ」
「そんなD級のモンスターに、この”絶ち糸の魔女”が遅れをとるとでも思うのかしら?」
ネオがマナブレードをもって突進する。
しかし、ユーナの爪先から出る十本の糸がすかさずジャイアントボアを一刀両断した。
「……まあ、なくてもいいか」
ルクスの仕事は、荷物持ちだ。
Sランクピースメーカー二人といて、そうそう戦う機会はない。
「ユーナせんぱーい、横ぶったぎりは毛皮の買い取りが下がるのでやめてくださいって言ってるじゃないですか~」
真っ二つのモンスターをアイテムボックスに押し込むと、ルクスは二人を追いかける。
横道に入った途端、ルクスはジャイアントボアに突撃されて転んだ。
その足をジャイアントボアに狙われて、ルクスはズボンと靴を死守しようとあがく。
「やっぱり武器必要だった~~!! 助けて~! ネオせんぱーい! ユーナせんぱーい!!」
武器がないと、どうにもならない事態がきた。
デーモンハーフでもあるルクスは怪力で、噛みついてきたジャイアントボアを拳で貫通させる。
素材が台無しだが、ルクスとしては替えがないズボンとスニーカーが大事だ。
ジャイアントボアの肉は、筋が硬くて高値では売れない。
「武器……どーしよ……。レンタルも高いんだよなぁ~」
嘆きながら、拳のサイズの穴をあけてしまったモンスターをしまう。
どれも後で解体しなければならないが、ルクスの所持している解体ナイフは戦いに使えば折れてしまう。
バトル用とはわけが違うのだ。
「って、二人ともガンガン進んでるし! ちょっとは立ち止まってくれてもいじゃんか~~。俺の弱さをみくびってるよぉぉー」
泣き言を言いながら、ルクスは後を追いかける。
「なにすんだよ!!」
少年の声が、岩窟ダンジョンに響いた。
「あ、もしかして迷子の子の声かな?」
ルクスは、そそくさとネオの後ろに追いついた。
そこには、予想外の姿があった。




