第7話 癒しの妹
「お兄ちゃん、ごめんね……」
風がアパートを、ぎしぎしと揺らす。
ボロボロの衣服で帰宅したルクスは、アイテムボックスからユミエラに食事を出していた。
「食べたら寝るんだぞ? 無茶したら治らないからな」
「うん……」
きしむベッドに座ったまま、顔色の悪いユミエラはブラッドパンを食べだす。
ルクスが留守にしていた間も、飢餓状態だったのだろう。
食事しだすと、少しその頬に赤みが出てきた。
ユミエラは十ニ歳だ。まだまだ幼い。
父オーデュインがいた頃は、もっと立派な屋敷に住んでいたが「ちょっと出てくる」と言ったキリ、オーデュインは留守にしている。
ただ、オーデュインの”ちょっと”は長命種の感覚なので、すぐにバカみたい高い固定資産税で屋敷は売り払うことになった。
ルクスが働いているから大丈夫だろうと思われているのか、父からの送金はない。
というより、異世界のグランディアに行ったのなら電話が繋がるわけがないのだ。
「早く帰ってこい、さいふ……違ったオヤジ……! いや、間違ってないのか?」
ルクスは浴室にいくと、とんだイレギュラーで潜った単発型ダンジョンのモンスターたちをさばきだす。
アイテムボックスに入っている限り痛まないが、ピースメーカーギルドに頼むと加工費を取られてしまう。
あとで掃除が大変でも、自力ならゼロ円だ。
ルクスは、せっせと手慣れた作業を進める。
血抜きは、完全解毒・Sのお陰でルクスの胃の中に流し込んだ。
これで今晩の食事は、必要なくなった。
毛皮や骨は、低ランクモンスターでもいくらかにはなる。
「しっかし、シャツが死んだとはいえ新しく買うのはなー……空からジャストサイズのシャツ降ってこないかなー」
ありえない願望を垂れ流していると、食事の終わったユミエラがそっと声をかけてきた。
瞳はルクスそっくりの赤い色で、年頃にしてはかなり華奢だ。
病気になって以来、長い髪の艶が消えている。
「お兄ちゃん……いつもごめんね」
「それは言わない約束だろ! ……いや、ホントに。兄ちゃん無理なら泣いてるから、なんならオヤジの金が消えた原因は俺の推し活のせいだから!」
ルクスは、探索者の城石深玲という配信者に沼になるほどハマりこみ、屋敷があった当初はかなりの投げ銭をしていた。
それもこれも、すぐ父親が帰ってくると思っていたからだし、ユミエラが病気になっていない時期でもあった。
今でも、少しゆとりが出来ると自分の食費分だけ深玲のグッズに使ってしまう。
ユミエラが謎の病気にかかってからは自制しているが、課金欲はまだあるくらい反省はしていない。
「お兄ちゃんこの間、ユーナさんに怒られて泣いてたけど……?」
「それは別口の涙だからいいの! よくないけど、いいの、カウントしなくって!」
残業ダイスキ事務所では、悲しいがよくあることである。
何年経っても打たれ弱いルクスもルクスだが。
スマホが音を鳴らした。
ルクスが開くと、ケニーから「明日も廃棄出るから取りに来なね。あと商店街のダサいシャツでいいならあげるから」というメッセージが入っている。
「やっぱケニー先輩は神だろ……見たことないもん、こんな先輩……! ありがたやありがたや」
ルクスは、丈の短いシャツを掘り出した。
明日一日ならこれで十分だろう。
ようやくシャツの残骸を捨てると、ルクスは部屋着に着替えた。
この部屋着も十分、おんぼろだ。
モンスターの解体も済み、ユミエラの食事も明日まではある。
うきうきとして寝に入ったルクスは、翌日の仕事のアラームを付け忘れて寝坊することになる。
物忘れも多いルクスであった。
ドジが続きます。




