第6話 現金な話
「あったよ! ブラッド血入りオレンジが五本と、ブラッドパン四個、ブラッド~至高の血液パスタ~が三個」
「ああ~それだけあると明日の夜まではなんとか持ちそうです~」
ケニーが軽く眉をひそめた。
ブラッド血入りオレンジは二リットルボトルである。
「ユミエラちゃん、まだアレが続いてるの……?」
「はい、ストレスなのか何なのか、過食が治らなくて……うう」
ルクスのお腹が鳴る。ユミエラの為の食事と分かっていても、見ればお腹は空いてしまう。
先月あたりから、ルクスの妹であるユミエラは食欲がおかしい。
太るどころか、どんどん痩せていく。それでいて、食べる量は増える。
ルクスはもやし生活でも生きていけるが、ユミエラは血が入ったものでないと食べれない。
父は三年前からゲートの向こうに呼ばれて長期不在。
母は、ルクスが十代の時に亡くなっている。ユミエラは母の顔をほとんど知らない。
「病院は……断られたんだっけ」
「はい、ヴァンパイアハーフを診れる医者が今は東京にいないそうで」
病院も、人間相手と半妖では見てくれる病院の数も違う。
グランディアと繋がって三十年経っても、地球は人間優劣主義が加速している。
嫌ならゲートを越えて、出てけばいいだろうという主義だ。
ケニーもまた、エルフの母と結婚した父親が親戚から絶縁された身の上である。
「早く先生が戻るといいね」
「はい……。ケニー先輩、あの、オレ千円しかないんですけど」
「ああ、廃棄ものだからお金はいらないよ! って千円??」
ユニスは絶句した。
ルクスは金銭感覚が緩いが、生活費はさすがに抑えているほうだ。
ユミエラの症状はそれだけ圧迫しているのだ。
「じゃあ……せめてもやしだけでも買わせてもらいます」
「もっと早く頼ってくれればいいのに……」
ケニーは再び廃棄を漁ると、日持ちのしないパンなどを大量につみあげた。
主に狐狸属系のハーフ向けが多かったが、食べれないことはないだろう。
「これ全部もっていきな! 明日も、桐嶋先輩たちと仕事だろ? 体力つけなきゃ」
「ううう、ケニー先輩がマジで神すぎる……!」
ルクスに拝まれながらケニーはレジでもやしだけ決済し、ため息をついた。
給料日まであと一週間、この後輩は生き残れるのだろうか。
「またなんかあれば、すぐにうちに来なね?」
「いや~そうそうケニー先輩ばっかり頼れませんよ~」
レジ台いっぱいの荷物は、一瞬でルクスのアイテムボックスに仕舞われる。巨大で底がないアイテムボックスこそが、ルクスが荷物持ちたるゆえんだ。
「ケニー先輩、ありがとうございました!明日、先輩のしごきが辛くても頑張れます! 俺は弱いけど根性はあるんで!」
わずかに元気を取り戻して帰っていく後輩を見送って、ケニーは呟いた。
「まあ、先輩たちがSランクで派手だから目立たないだけで、ルクスくんもかなり強いんだけどねぇ」
とりあえず、明日の後輩も守れるようにケニーは在庫を調べなおすのだった。
一方、コンビニすねいくを出たルクスは、るんるんとユミエラの待つ家に急ぐ。
頼りがいのある先輩がいて、とりあえず明日までは保証された。
「さぁ~明日も稼ぐぞ~!」
ルクスは完全に忘れている。
給料日は来週だということを。
物忘れの多い主人公です。
いろいろ忘れます。




