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気弱なヴァンパイアハーフは多分バトルを頑張りたい〜事故物件ダンジョンで社畜しながら妹の命を救います  作者: 相木ふゆ彦
第三章 吸血鬼も歩けば勇者に当たる

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第59話 シュラの被害①

 コーネルの郷に二泊したルクスたちは、いったん日本に戻った。

 

 半分有給にしてくれるとはいえ、残業ダイスキ部の事務所を長く開けるわけにはいかない。

 第三の実の獲得方法もわかったことだし、防寒グッズも含めて買い物も必要だった。

 

「おはよーございます!!」

 

 いつもより少し早めに事務所に入ると、ネオがパソコンに、ユーナが電話にかじりついていた。

 

「はい、はい、いえ、そんなことは……はい、こちらとしても何故このような話が……」

 

 ユーナが、ルクスへハンドサインでお茶だしを合図する。

 その金色の瞳は、充血して疲れていた。

 

「……なにかあったかな……」

 

 今まで、こんな事態は見たことがない。

 社長のユーナはともかく、ネオは事務所では筋トレか飲食しかしない。

 

 パソコンをいじっているところを見るのは、初めてだった。

 ダージリンのアイスティーと、ネオにもプロテイン牛乳を作って運ぶと二人はガブガブと飲んだ。

 

「どうしたんですか?」

 

「能天気だなぁ、ルクスは。ルクスだろう? これを引き起こしてるのは」

 

「え??」

 

「うちの事務所が人間に害をあたえようとしてるって、書き込みと、動画で三日前からずっとこれだ。おかげで他の配信者や、探索者ギルドやらから問い合わせの電話がガンガンきているし、事務所の掲示板もずっと荒らされっぱなしでな」

 

 ルクスは遅まきながらはっとした。

 三日前といえば、あの禍津シュラと出会った日だ。

 

 ルクスとしては言いたいことを言ってすっきりしたが、シュラとしては恥をかいたのだ。

 ユーナに振られて掲示板を荒らした前科がある。

 もっと早く気づくべきだった。

 

「すみません、シュラとトラブるったというか、言いたい放題言ってしまいました……」

 

「シュラですって!? やっぱりね、この陰湿さに覚えがあると思ったのよ!」

 

 電話を切ったユーナが大きな声をだす。

 鈴のような美声も、少しかすれている。

 

「おふたりとも、すいません!! 俺、グランディアでやらかしちゃって」

 

「なんでグランディアでシュラとやらかすことになるのよ」

 

 ユーナは一息に紅茶を飲み干した。

 そうとう喉が渇いていたのだろう。

 被害の大きさに、ルクスは大きな背中を縮めた。

 

「その、グランディアであっちこっちシュラが荒らしてるんですよ。いま、ユミエラのためのアイテムをとりにドワーフのところにいるんですけど、亜人がー! くそがー! って。他の村にも色んな嫌がらせしてきてて、死人がないのが不思議なくらいやらかしてるんですよ……! それで思わず、そんなんだからユーナ先輩にふられるんだーって言っちゃって」

 

「ああ……なるほど」

 

「ははは、ルクスがキレるところなんて、見てみたいね」

 

 ネオは気楽に笑ったが、ユーナはソファに座った。

 お怒りモードかと、ルクスは床に正座する。

 

「やってやろうじゃない」

 

「は?」

 

「ダンジョン発生局と、探索者ギルドと、ピースメーカー事務所にこっちから連絡するわよ。しばらく、仕事現場に張り付いてもらってうちの仕事をすべてチェックしてもらうわ。ウチにまったく非がないことを確認してもらいましょうか!」

 

 嫌がらせに、静かに耐えるほど大人ではない。

 相手がはっきりして、ユーナはすっきりとした顔になっていた。

 

「じゃあ、ぼくはもうパソコンで中傷を消さなくていいんだね?」

 

「弁護士に連絡して、IPアドレスを辿ってもらうわ。あとは、ダンジョン発生局のほうから公式に、うちの事務所はちゃんとしてるって声明を出してもらったら、戦いよ!」

 

 ルクスは、賢人に教わった情報を思い出した。

 シュラは采月ホールディングスの社長の息子だ。ユーナの家も、采月ホールディングスに糸をおろしている。

 

「あの、問題になりませんか……? 神城家と、ホールディングスのほうでトラブルとか……?」

 

 ユーナは、昭和のお嬢様のような高笑いをあげた。

 テンションが高ぶって、白い頬が染まる。

 

「できるものなら、やってみなさいよ。癒しの糸の卸先はいくらでもあるわよ。采月ホールディングスがおりても、困るのはあっちのほう! もっと高値をだしても買いたいっていう声がありながら、専属契約させてあげてるんだから」

 

「なんか、俺のせいでこんな面倒なことになってしまって……」

 

「いいのよ、アタシはいつかあいつを叩き潰そうと思ってたのよ。喧嘩を売られたなら買うわ!」

 

 ユーナの目がキラキラと光る。

 導火線に火はつけられた。

 美しい爆弾は、破裂する瞬間を待っている。

 

「たかーーいお値段つけさせてやるわよ、この喧嘩。首を洗ってなさい、禍津修羅!!! たっぷり後悔させてやるわよ」

 

 再びお嬢様笑いがこだまして、ルクスはなんとなく天井をみあげた。

 異世界に嫌がらせを繰り返し、地球でもそれを繰り返す。

 

 ただ、ルクスの無邪気なつっこみは大きな大きな嵐を呼んでしまったらしい。

 この台風の流れつくさきは、ルクスには分からなかった。

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