第55話 闇との遭遇①
予想はしていた。
しかし、ハーフエルフのケニーがこれほど敵視され、ドラゴニュートハーフのアリアさえ追い出されそうとは。
ルクスは、慌ててアイテムボックスから日本で買ってきたお酒をだした。
「あの、意味なくきたわけじゃありません! ティルノア港町のガイルさんから紹介されてきました! とりあえずこれで話を聞いてもらえませんか!!!」
四人のドワーフに、泡盛、ウォッカをそれぞれ渡す。
――こんなことなら、もっと買っておけば良かった。
ルクスは後悔しつつ、ドワーフたちの顔色をうかがう。
「ティルノア港町のガイルならば知り合いじゃが」
「……なんじゃこれは。酒か?」
「酒らしいのぅ」
それぞれのドワーフたちは、酒瓶をあけて口をつける。
しかし、一口で全員が顔をしかめた。
「なんじゃこれは。こんなもん酒じゃないわい」
「ジュースでも、もう少し飲みごたえはあるわい」
「え……一応、日本では強いお酒なんですが……」
なんなら、ウォッカは日本産のではない。
強い酒精のものを持ってきたと思ったのだが、ドワーフたちには酒とすら認識されなかった。
「こんなもんで、わしらが受け入れると思ったのか」
「浅いのぅ……」
「まあ、それでも飲み物を用意するくらいなら、いいほうかのう」
「ジュース以下じゃが」
わいろ作戦は、完璧とは言わなかったが四人のうち三人がシャベルやハンマーを下ろさせた。
一番マッチョなドワーフだけが、まだ斧を高々と持っている。
「あとはバルガンに任せるか」
「そうさな、まともな酒を飲もう。休憩じゃ、休憩」
三人のドワーフは、よく見もせずに一番大きい屋根の家に入っていった。
「そこな半デーモン。名前はなんじゃ」
「ルクス・フォン・レインフォール、です」
日本では名乗らないフルネームを、ルクスは敢えて名乗った。
それほど、目の前のドワーフからは威圧を感じる。
「わしゃ、バルガン・ドゥームじゃ。一応ここのコーネルの郷の代表じゃが、ただの鍛冶屋のオヤジじゃ。そうか、オーデュイン卿のせがれか」
くしゃくしゃの黒髪から覗く金の目が、初めて優しく笑った。
斧も降りて、友好のきざしが見える。
手足がかじかむケニーをじっと見て、バルガンはため息をついた。
「なんの用事かわからんが、ここはハーフエルフがくるところじゃないぞい。だが、ここに突っ立ってては寒かろう。ひとまずわしの家へ――」
「避けてください!!」
アリアが叫ぶのと、ルクスがバルガンに覆いかぶさるのは同時だった。
背後の斬撃で、ルクスが背中からまっぷたつにされる。
崩れ落ちるルクスの体を振り返りもせずに、ケニーが矢を放った。
「おいおいおいおいおい、亜人がまた群れて増えてやがる。同盟でも組んでオレと戦おうってか~? 笑わせるじゃねぇか、早く魔剣を渡してオレに全コロさせてくれよー」
一撃を放った男が、影を引き連れて現れた。
転移石を使ったであろう男は、派手な装備にピアスをたくさん開けていた。
他者を見下す尊大な目つきが、整った顔を歪ませている。
「また貴様か、シュラ……!!」
バルガンの言葉に、ケニーたちは悟る。
これが、自称勇者シュラ。
フォルン村に毒の泉を撒き、ホムラマルをだまし、ティルノア港町にカラースライムを広げ、湿地帯の銀塊を奪って、フォルン村にジャイアントオークの群れを差し向けた、あの。
「禍津、修羅さん……ですね」
バルガンの上で肉塊となっていたルクスが、しゃべった。
寸断された背中とお腹は、ふつふつと再生する。
「げっ! なにこいつ、アンデッド系か? キモいんだよ、亜人!!」
シュラが、再生し終わったルクスを蹴りつけた。
その一撃はアリアが止めようとしても、止められない速度で行なわれた。
アリアは、シュラが連れている影がジャイアントオークキング、デスナイト、ゴーレムキングの死体なのを見た。
「ネクロマンサーですか……!」
「ふん、ひれ伏せよ亜人ふぜいが。なんだ、その赤い髪は。何人だよ。こいつはみるっからにエルフだし、何キモ連合だよ」
「……アリアちゃん」
ケニーがそっとアリアを呼ぶ。
分が悪い、数が悪い。
ケニーの矢も、デスナイトの騎士が軽々と受け止めてしまった。
転移石で、撤退するしかない。
アリアも、そうっと頷いてアイテムボックスに手を入れた瞬間――
「そういうことをいったりやったりしてるから、ユーナ先輩にフられるんですよ!!!」
ルクスが指をさして、強く断言した。
「は……? ゆー……」
「神城ユーナ先輩です! 前にくどいて振られたんでしょ」
シュラの顔面が、高速で赤くなったり青くなったりし始めた。
まさかグランディアで、日本での黒歴史にあうとは自称勇者も思っていない。
ケニーはそのエピソードをしらなかったが、あまりにも図星な煽りなのは見てわかる。
慌ててルクスを黙らせようとしたが、遅かった。
「ひとの嫌がることはしたいけないって教わらなかったんですか? そういうことするから、モテないんですよアンタ!」




