表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気弱なヴァンパイアハーフは多分バトルを頑張りたい〜事故物件ダンジョンで社畜しながら妹の命を救います  作者: 相木ふゆ彦
第二章 可愛い後輩には旅をさせろ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/63

第53話 アの実

「差し入れはどう? アタシが作ったものじゃないけど」

 

「おいしいです。ユーナさんの家にいるときは、お兄ちゃんから受け取った材料でいつもお料理してくれるから、豪華な味付けに慣れてきちゃって」

 

 おんぼろアパートの二階で留守番をするユミエラに、ユーナが家で作った肉料理を差し入れていた。

 ヴァンパイアハーフのユミエラは、栄養を優先すると野菜より肉になる。

 

 そしてなによりも、血の味を欲していた。

 だが、今日はルクスが二つ目の実を持ってくる日だ。

 

 ユミエラも、どこかそわそわして落ち着かない。

 それでも、前回の実は効果があった。

 今回のものも、きっと効果があるはず。

 

「……ユミエラも大変ね。動けないのはつらいでしょ」

 

「自分のことより、お兄ちゃんの負担になってることが辛くて……。ユーナさんにもですけど」

 

「十二の子が、変な遠慮しないの。こっちは成人してるんだから」

 

 ユーナは、ルクスには見せたことのない慈愛の表情で笑う。

 ユーナにはきょうだいがいないので、ユミエラを妹のように思っていた。

 

「ユーナさんは今日お仕事いいんですか?」

 

「ネオは探索者に誘われてダンジョンだし、アタシは回復の糸の納品が立て込んでたから、休みよ」

 

 実際、ユーナは今日だけで十本の回復の糸を作ってきた。

 糸一本で100万円するが、どんな重症化も回復する。

 

 多少の毒や、麻痺などもこれ一本で解決するので、外傷相手ならばハイポーションよりも効く。

 城石深玲のときは、内面的な弱りだったので使わなかったが、ハイランカーの探索者によく売れている。

 

「は~……おいしかった……すごーく贅沢なこと言うと、ブラックバーニーに慣れてきちゃって」

 

「ふふふ、ワイバーンは高級肉よね。でもルクスがまだワイバーンは持っているはずよ」

 

「えー! 楽しみです」

 

 深玲救助のあと、ルクスは帰りもユーナを背負って走った。

 深玲のことはネオが背負った。

 

 ルクスいわく、推しをかつぐのはさすがに他のファンに殺されると言って。

 行きは急いだものの、一行は帰りは高級素材を取りながら帰った。

 

 炎熱きのこや、火の玉サボテンなどの珍しい素材も手に入ったのだ。

 ハーフエルフほど数はいないが、ハーフドワーフに人気の素材でもある。

 

 ワイルドイエロージャッカルや、ワイバーンを倒しつつ、デザートスコーピオンを多く採取した。

 デザートスコーピオンは、それでデザートスコーピオン用の薬が作れるので役にたつ。

 

「……ユミエラは偉いわね」

 

 ユーナはしんみりと呟いた。

 隣の部屋からの音漏れ、外の人の声。

 

 騒々しいこの部屋は、ぽつんと留守番をするには寂しいだろう。

 十二の子供が、学校にもいけず家で一人、兄を待つ。

 ユーナは想像して胸が痛くなった。

 

「なにがですか? なにも偉くないですよ。偉いのはお兄ちゃんです。働いて、グランディアにも行って……」

 

「まあまあ、アレはそれくらいでちょうどいいのよ。気にせずに働かせなさい」

 

 下手な言い方をすると、ユミエラがもっと気にしてしまう。

 ユーナは適当にルクスを雑に扱いながら、仕事の話をすることにした。

 

 野菜ダンジョンで、恐怖の虫モンスターが出たことや、ルクスがどうやら迷子の中学生と仲良くなった話。

 そして、熱くて寒かった砂漠ダンジョン。

 

 救助者のことは本来伏せるが、相手はユミエラだ。

 ユーナはルクスの推しだったことも含めて、おもしろおかしく語った。

 ユミエラは食べ終えたお皿をベッドのサイドテーブルに置いて、笑う。

 

「それで、お兄ちゃんやたら浮かれてたんですね? 夜中に変な声だしてると思ったら」

 

「そうなのよ。アイツ、奇声あげてたの? 迷惑なやつね」

 

 二人で笑っていると、勢いよく玄関があいた。

 

「ユミエラーーー!! 次の実はいちごだよーー!!! ……あれ、ユーナ先輩?」

 

 ユーナとユミエラは、大いに笑った。

 なにがおかしいというより、ルクスのタイミングが完璧すぎた。

 

「じゃ、アタシは失礼するわ」

 

「え、お茶くらいだしますよー! ああー、差し入れに来てくれてたんですね。ありがとうございます!」

 

 ユーナが断る暇もなく、ルクスはお湯を沸かしだす。

 一度たったユーナは、また座りなおした。

 

「ユミエラ、はい。これがアの実だよ。ネーミングセンスはおやじを呪ってね」

 

「これが、二個目の実……!」

 

 ユミエラは、見るからに甘そうな大粒のイチゴを受け取る。

 ルミリの実と同じく、濃厚な血の匂いがまじってひどく美味しそうだった。

 へたを取って、口の中に放り込むと、芳醇な香りが口中に広がった。

 

「おいしい……」

 

 父オーデュインは予想していたのか。

 それとも母の死をまだ、悲しんでいるのか。

 

 じょじょに収まる飢餓感が薄れていくのを感じながら、ユミエラは祈った。

 病気が治りますように。

 もっと、ずっとよくなりますように。

 

「……乾杯」

 

 ユミエラを見ながら、ルクスとユーナは紅茶でそっと乾杯する。

 あと、たった三段階。

 

 ルクスは、まだ、いくらでも頑張れる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ