第52話 三月三日・二番目のアイテム
ルクスとアリアは、転移石でティルノア港町にやってきた。
二月二十八日に、シルバースライムを十五個納めにきている。
ケニーのコンビニで買いそろえた百十万円相当のリザードマン食品も、大いに売れた。
転移石は、トータル85個になった。
今日の任務は、ひたすらアの実をもぐことだ。
「ルクスさま、アリア殿、お疲れ様です」
戦闘隊長のガイルが、いつものように向かい入れてくれる。
リザードマンの子供たちも、ずいぶん懐いてくれた。
「ガイルさん、今日はお世話になります」
「よろしくお願いいたしますです」
実を取るだけなのだから、本来はルクス一人で問題ない。
ガイルたちから、実をとりにくるときアリアもくるなら転移石を出しますよ、と言われた好意にのっかったのだ。
「これ、少しですけど……」
ぎりぎりで入荷された、虫パンをアリアがこどもたちに差し出す。
お土産は、喜んで運ばれていった。
「いつもすみませぬな」
「いえいえ」
ルクスの提案の、フォルン村との貿易はうまくいっている。
リザードマン側は、シナきのことコンビニ商品の仕入れ。
フォルン村のたぬき獣人ほうからは、転移石と現金の収入。
ルクスの説明と立ち合いがあったので、円滑に話は進んだ。
次回からはルクスは立ちあわず、二つの種族で貿易することになった。
「嬉しそうですね、ルクス様。待望のアの実ですからね」
ガイルが、ルクスの浮かれっぷりに微笑む。
そんなルクスは、深玲救助の際に新しい電話番号を卯実誠二ごしに受け取った。
それから数日たつが、ずっと浮かれっぱなしである。
アリアは、何故ルクスが浮かれているかを知っているので、面白くない。
「そうですねー、それと個人的にいいこともあって」
「ほお」
「推しからのファンサというか……」
「おし?」
ガイルは首をかしげたが、分からないまま放置する。
ルクスはによによしながら、ガイルの後ろをついてあるいた。
湿地帯の反対側、港町の奥にその畑はあった。
まるでルビーのようないちごが、畑全体に広がっている。
リザードマンたちは他に作物は植えていないのか、どこもかしこも大きないちごが植わっていた。
「これが、アの実……」
「はい、そうです。十六個、お取りくださいませ」
「アリアちゃん、八個ずつ選ぼう!!」
「はいです!」
ルクスとアリアは、いそいそと二手に散った。
どれも美味しそうだが、一番完熟のものを選びたい。
集中して、一個ずつ見比べながら取っていく。
そしてルクスとアリアが通過した畝は、どんどんアの実が採取されていった。
今日限定の実だ。
これから転移石で、あちこちに売りにいくという。
朝一から押しかけたとはいえ、自分たちを待ってもらったのは少し申し訳ない。
「これで、八個かなーー?」
ルクスが腰をあげると、まだアリアは熱心に選んでいた。
ルクスは一呼吸いれることにする。
「ふっふっふ、今日は豪華にお茶だー!」
いつもは水道水INペットボトルのところが、今日は未開封のお茶だ。
アの実ゲットのおいわいを兼ねつつ、深玲と仲良くなったことへの浮かれも含まれている。
お茶の、久しぶりのフレーバーにうっとりつつ、ルクスはふと気になった。
「ガイルさん、あの、次に俺たちがいく予定なのがコーネルの郷っていうんですけど、どんなところかご存じですか?」
リザードマンの誰かがうっかり食べないように見張っていたガイルは、顔をしかめる。
明らかにいい反応ではない。
「コーネルの郷は、ドワーフのさとです。人間を嫌いますが……まあ、ルクスさまは生まれを明らかにすれば大丈夫かと……。しかし半妖であるアリア殿は、どういう立場になるか……かなり気難しい人種なので、難しいですね」
「詳しいですねー」
「もともと、転移石を作ったのはエルフです。我々リザードマンは、出来たものを真似しただけ。しかし、ドワーフはエルフと仲が悪いですから、定期的にうちの商品を買ってくれるのです」
エルフと仲が悪い。
そう聞いて、ハーフエルフのケニーも心配になった。
連れて行って大丈夫だろうか。
「ダメ元で、私の名前をお使いください。ティルノア港町のガイルと言えば、そこそこ名が知れておりますゆえ」
「ありがとうございますっ!!」
「おそらく、ルクス様のお父上のオーデュイン卿のお名前のほうが効き目はあるかと存じますが」
「いやー、だめおやじですからねえ」
ルクスは、今度酒店に行ってみようと思った。
ドワーフといえば、酒だ。
リザードマンたちが喜んだように、地球の酒も喜ぶかもしれない。
ロシア人でもびっくりするようなお酒を選んで、持って行ってみよう。
「ルクスさーん、選び終わりましたですー!」
アリアが駆けてくる。
あとは急いで戻って、ユミエラに食べさせるだけ。
ルクスは、ガイルとしっかり握手をした。
「お世話になりました!! そのうち、また転移石を買いにくると思います」
「こちらこそ、お世話になったのはこっちのほうです! またお会いできるのを楽しみにしております」
ルクスとアリアは、手をふってティルノア港町を後にした。
たくさんのリザードマンたちが手を振り返してくれる中、転移する。
ルクスたちを恋しがる子供たちをよそに、大人たちは注文のあった土地にアの実をおくる準備を始めた。
この作業が終われば、ルクスたちが運んでくれた珍しい食品でお祭りだ。
リザードマンたちは、生き生きと動き回る。
輝くアの実は、畑を赤く染めていた。




