第50話 厄介なダンジョン仕事④
「呆れた……ほんとに5時間で着くなんて」
「ごはん休憩が終わったら、すぐに深玲様救出ですよ!!」
「仕切るねえ、ルクスが」
砂漠のオアシスに座りながら、ユーナもネオも呆れるしかない。
途中何度かモンスターに襲われつつも、ごぼう抜きでルクスとネオは走り抜けた。
ロックバードと、ワイバーンだけは倒してきたが、倒した瞬間にルクスに収納され、また走る。
砂漠の地獄のランニングだった。
ユーナはずっとルクスの背中の上だったが、まだ視界が揺れる気がする。
タフネスなネオも、さすがにくたびれていた。
「冷やし中華、醤油味とごまだれがありますよ。あとは蕎麦とー、あとはおにぎりとー」
「ルクス、おにぎりにプロテインをぶち込んでくれ」
「ネオ先輩、おにぎりくらいそのまま食べましょうよ……プロテインは飲んでください。あとでプロテインバーも出しますから」
ユーナは、ごまだれの冷やし中華を選んだ。
胃がまだ揺れている気がするが、食べないともたない。ダンジョンの鉄則だ。
まして、ここから何日かかるのか謎なのだ。
「あ、インスタントのお味噌汁もありますよー。お湯もあります」
「いいから、経口補水液をちょうだい。凍ってるやつよ」
「はい、レモン味の経口補水液です!」
オアシスには、他にも2パーティーがいた。
テントを張って、オアシスを拠点に狩りやアイテム収集をするようだ。
半妖のユーナたちをちらちらとみてくるが、ユーナもネオも無視した。
「深玲さま、どうしてるかなぁ……」
ざるそばをすすりながら、ルクスが呟く。
残業ダイスキ部に入社したときには、ルクスは城石深玲のファンだった。
推しが気になるのは当然だろう。
ネオは、受け取った冷えた牛乳にプロイセンを混ぜる。
しゃかしゃかと振って、喉を鳴らして飲んだ。
ここにくる途中も、ルクスが休憩をほとんどとらなかったので、喉がからからだった。
「なんのために僕が呼ばれたと思ってるんだ。ドラゴンアイなら、救援者探しは簡単だ」
「でも、見えないんでしょう?」
「ここら周辺には見えないだけだ。しっかり休憩して、集中すればすぐだ」
ユーナは、サングラスを少しずらす。
砂漠を焦がすような太陽は、少しずつ沈み始めている。
「今日中には無理じゃないかしら」
「そんな!! いやでも、ネオ先輩ならすぐに見つけますよ!!」
「ははは、任せろ!」
「でも、夜もモンスターは活発化するのよ」
「だからこそ、急ぐんです」
何を言ってもダメだ。
ルクスは、深玲を助けるまで止まらない。
ネオはおにぎりと、ユーナは冷やし中華を急いで食べ終わった。
「さてと……」
おにぎりを六個お腹にいれたネオは、意識を集中させる。
目の瞳孔が、より開いた。
四方を順番に注視していたネオが、ぴたりと止まる。
「おそらく――あれだな。倒れている人物が見える」
「行きましょう!」
「倒れてる?」
ユーナが聞き返したが、ルクスはすでに走る準備ができていた。
ユーナはまたルクスの背中に押し上げられ、夕焼けの砂漠へとさらわれる。
「距離は、10キロはあるな……見つからないわけだ。大きな岩の横にいるのも、また間が悪いな」
「ネオ先輩、急いで~~~~!!」
ルクスの悲鳴に、ロックバードが下りてくる。
モンスターは、夜目が効くので昼夜が関係ない。
「うるさい鳥ね……一撃で仕留めるわ」
ユーナの糸は、休憩をとってまた硬度を取り戻していた。
それでも、慣れない暑さといい体中のじゃりじゃりした砂といい、機嫌はどんどん悪くなる。
モンスターには悪いが、八つ当たりだ。
ユーナの糸は、ロックバードの頭を簡単にスライスした。
ルクスは、頭の方は放置してロックバードの本体だけをアイテムボックスに入れる。
もともとロックバードの価値は、頭にはない。
「ここからコースがずれてるな、こっちだ!!」
ネオが砂ぼこりをあげながら迂回し、ユーナを背負ったルクスが続く。
デザートスコーピオンを回避しながら、走ること15分。
体を丸めるようにして、意識がない城石深玲を発見した。
「み、深玲さまーーー!!!」
「デザートスコーピオンの毒にやられたようだな」
「アタシは発見したと連絡をいれるわ。ゲボク、手当して」
デザートスコーピオン用の毒消しは、アイテムボックスに入っている。
だが、ルクスはその値段を知っていた。
一個50万円。
深玲自身が救援を出したわけではないが、救援されている以上その支払いと、ピースメーカーが使ったものの経費を払わなくてはならない。
連絡できなかったということは、高額のスマホをなくしたということだし、しかもそれは一台ではない。
配信用のドローンは、高いのだ。
それらを考えると、今回の深玲が負担する金額はすごい数字になる。
「それ……俺が吸うんじゃダメですかね?」
「ん? ああ、完全解毒・Sがあるからか。しかし、毒だけ吸い出せるかい?」
「ヴァンパイアハーフですよー? それくらいは簡単です」
社長のユーナは電話をしている。
ネオは、独断でルクスにOKを出した。
意図せず、推しを噛める許可がでて、ルクスはひとりドキドキしたが、気を引き締めた。
相手は死にかかっている。
ルクスがやるべきなのは、体中に広がった毒の除去なのだ。
テントなどをアイテムボックスから出すと、ルクスは深玲の首筋に尖った歯を当てた。
「もお、勝手なことして! デザートスコーピオン用の毒消しを飲ませればいいだけなのに!」
「でも、それだと後遺症が残る可能性がある。違うかい?」
「まあ……時間は経ってるし、どのみちハイポーションは飲ませないといけないだろうし……」
電話を終えたユーナがぶつぶつと呟いたが、索敵に専念することにした。
せっかく治した救援者が、またデザートスコーピオンに噛まれても困る。
ネオも、索敵をしながらテントを立てた。
今日は、深玲を動かせないだろう。
砂漠ダンジョンで、野宿するしかない。
幸い、寒さ対策はしてきた。
こうなったら、砂漠ダンジョンを楽しもうとネオは開き直った。
ルクスは、まだ毒を吸い続けている。
長い砂漠の夜が、始まろうとしていた。




