第49話 厄介なダンジョン仕事③
「ゲボク!!」
「ルクス、大丈夫か!?」
ルクスの手首に、ぽっかりと穴が開いた。
いかにデザートスコーピオンの針が太いかどうかが、分かる。
「だいじょーぶですよ。そういえば、俺完全解毒・Sがあるんで」
けろりとしてルクスは立ち上がった。
ユーナとネオは、ほっとする。
肝心のモンスターは、ネオが叩き潰していた。
「まあまあ、デザートスコーピオンは俺が担当しますから」
「倒してから言ってよね。身代わりになってるようじゃ、まだまだよ――でも、ありがとう」
「はい!!」
にこにこと笑うルクスは、アイテムボックスから棒アイスを取り出す。
「は? アタシのアイスはそれじゃないわよ」
「でもユーナ先輩のアイスだと、カップアイスでしょう? 揺れながら食べるのには向いてません!!」
ルクスは、顔をきりっとさせながら断言した。
ユーナは、嫌な予感がする。
「なにせ、我々は城石深玲さまの! 救援で! 大急ぎなんですから!!」
バッと砂が舞う。
ルクスが、ユーナを背負ったのだ。
「さあ!!! サクサクいきますよー!! ネオ先輩も、ほらほら!!」
ユーナをおんぶしたまま、ルクスが走り出す。
推しが絡むと、この男は怖い。
デザートスコーピオンが、数体這いよったがルクスは蹴たおしていく。
「あれ、素材高く売れるのよ……」
「ははは、もう、聞こえてないな」
ユーナは、視界が上下に揺さぶられる中で棒アイスを口にした。
長らく食べていない味だが、久しぶりだとおいしく感じられる。
ルクスの広い背中に揺られて、砂漠の中で棒アイスを食べる。
それは、普段では味わえない環境だ。
「次のアイスは高いほうにしてよ?」
「次のアイスは、二時間後でーす」
いつもはいいなりのルクスが、どんどん仕切って砂の中を軽快に走る。
ユーナの表情に、ネオが噴き出した。
「なによネオ! あんたはコンパス持ってるんだから前を走りなさいよ」
「はいはい、了解したよ、社長」
ネオはルクスの三メートル先を走り出し、横から出現したワイルドイエロージャッカルの群れをなぎ倒す。
それをユーナが糸で拾い上げ、走りながらルクスがアイテムボックスにしまう。
ルクスは、その隙間にキンキンに凍ったペットボトルの水にストローをさしたものをユーナに差し出した。
この暑さでは、氷はすぐに解ける。
そして、揺れる中でペットボトルは飲みにくい。
それを想定したうえでの、ストローの配慮。
――悪くないじゃない、ゲボク。
ユーナは、帽子をおさながらストローを口に含む。
この砂漠の中、氷水は染み渡るほどにおいしかった。
「このスピードをキープしたら、6時間くらいで着いちゃうんじゃないかなー?」
ネオが声を張り上げた。
過去にこのダンジョンにきたことがあるネオは、距離と景色を大体覚えていた。
ダンジョンの中では、方向音痴ではなくなる。
「ネオ先輩、もっと早くできますか!!」
「いいけど、ルクスは最高速度じゃないのか?」
「まだまだ早く走れますよっ!!」
ルクスは推しの危機にリミッターが壊れたらしい。
ぐっと速度が増して、ユーナは慌ててルクスの首にしがみついた。
「ならいいんだが――じゃあ、飛ばすよ?」
「はいっ!!!」
サボテンの間から、デザートスコーピオンが顔を出すが二人の速度には追いつけない。
時速はすでに40キロを超えていた。
オリンピックの短距離走なら、優勝できる速度だ。
グランディアの血を引いているものは出場できないが――。
ユーナは、サングラスを抑えながら内心ため息をつく。
思ったより早く、依頼は達成されるかもしれない。
ルクスの暴走がどこまで続くのか、ユーナには分からなかった。
***
城石深玲は、何度目かのポーションをかけた。
「いたっ……」
目に染みるのは、汗か涙か――もう思い出せない。
待ち合わせの場所から逸れたのは、ワイバーンを追っていたせいだ。
いいところまで追いかけたら、生配信でかっこよく倒すつもりでいた。
それなのに、途中でデザートスコーピオンがふいに現れて深玲はスマホを落とした。
一撃目は、背中のリュックを犠牲にして避けた。
一瞬で、デザートスコーピオンの毒がリュックを溶かす。
毒消しはアイテムボックスの中にはひとつしか入っていない。
氷魔法で狙いを定めていると、上空のワイバーンに思い切り体を掴まれた。
身動きできない深玲めがけて、デザートスコーピオンの毒針が刺さる。
あまりの激痛にもだえる深玲を、ワイバーンがさらった。
ワイバーンは、叩きつけて獲物を捕食する。
一面の砂地を飛んだワイバーンは、大きな石を目掛けていく。
叩きつけられる前に、深玲はなんとかアイシクルランスでワイバーンを貫いた。
石と砂のあいまに落ちた深玲は、毒で意識を混濁させたままアイテムボックスを必死にあさる。
なんとか毒消しを飲んだが、市販のそれはデザートスコーピオンの毒を倒すのには弱かった。
悪化は防いだものの、痛み止めの感覚でポーションをかけたり飲んだりして、深玲は激痛に耐える。
――知らせなきゃ。
しかし、予備のスマホは置き去りのリュックの中だった。
スマホの充電バッテリーのひとつはアイテムボックスに入っていたが、本体がなければ意味がない。
――どうしよう、死んじゃうのかな……。
ポーションを水代わりにするにも、数には限度がある。
毒は抜けないまま、深玲は苦しむ。
幸い、ワイバーンの死体が転がっているせいでワイルドイエロージャッカルの餌にはならずに済んだ。
もしくはそれは、深玲が毒で苦しんでいるからかもしれない。
断熱と防寒の二重付与された装備のおかげで、深玲は凍死も焼死も免れているが、痛みは消えない。
モンスター避けのアイテムも、リュックの中だ。
次にデザートスコーピオンがきたら、深玲には逃れるすべがない。
一体、あと自分の体はどれだけ持つのだろう。
深玲自身にもそれは分からなかった。




