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気弱なヴァンパイアハーフは多分バトルを頑張りたい〜事故物件ダンジョンで社畜しながら妹の命を救います  作者: 相木ナナ
第二章 可愛い後輩には旅をさせろ

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第47話 厄介なダンジョン仕事①

 残業ダイスキ部の社内で、スマホを見たユーナが大きく嫌な顔をした。

 美麗な顔をしかめているせいで、ルクスが必要以上に怯える。

 

「なんだい、その顔は」

 

 躊躇なく踏み込んだのはネオで、ユーナはプラチナブロンドの髪を振った。

 綺麗な髪が、微かなウェーブで揺れる。

 

「きたのよ、依頼が」

 

「いいことじゃないか」

 

「……砂漠ダンジョンの救援よ」

 

「断ってくれ。前に探索者に誘われたけど、砂っぽくって大変だったんだ」

 

 ネオがプロテインバーを頬張りながら、顔をしかめた。

 アイテムボックスから半袖を出して着替え始めたのは、ルクスだけだ。

 

「Sランクピースメーカーがご指名なのよ。アタシとあんた」

 

「あ、じゃあ俺は留守番を――」

 

「させるわけないでしょ、働いてゲボク」

 

 ユーナとネオは、砂漠向けの装備を引っ張り出す。

 熱に強い素材で出来ている分、防御は弱い。

 ついでに、ネオは事務所に置きっぱなしにして忘れていたUVジャケットをルクスのために置いた。

 

「ルクス、装備しまっといてくれ。ジャケットはルクスが使っていいよ」

 

「あと、冷蔵庫の中の飲み物も、冷凍庫のアイスも入れておいて」

 

 事務所の冷蔵庫は、こういうときのために業務用になっている。

 食べ物や飲み物をアイテムボックスにしまいまくるルクスを見ながら、ネオが尋ねた。

 

「ユーナ、救援ってことは永続型ダンジョンかい?」

 

「そうよ。しかも、もう今日で三日も連絡がないらしいわ」

 

「じゃあ、泊まり込みか。砂漠の夜は寒いな……なにかあったかな」

 

 事務所で、この手の厄介な仕事がきたのは火口ダンジョンが最後だ。

 暑さへの対応はあるが、寒さへの対応がない。

 

 大抵の救援は、探索者同士でやりあうので普通のピースメーカーの事務所にはこの手の依頼がまず少ないのだ。

 残業ダイスキ部に限っては、Sランカーが二人いるためにたまにこうして回ってくるのだが。

 

 特殊なダンジョンは、人気が少ない。

 そのせいで、ピースメーカーが頼られるのだ。

 

「たしか、物置に真冬用のコートが……」

 

「ルクス、コンビニであったかいものを買い占めてきてくれ。食べ物は事務所であたためて、すぐアイテムボックスに入れればいい」

 

「ゲボク、あったかい紅茶もたくさん買ってきて」

 

「はーい!」

 

 事務所のⅠCカードを持って、ルクスがばたばたと走っていく。

 ユーナもネオも、半妖らしい食の偏った好みはない。

 

 半妖コンビニでなくとも、普通のコンビニで用は足りる。

 ましてや事務所のそばのコンビニは、残業ダイスキ部の大量買いに理解があった。

 

 マニアックな紅茶や、プロテイン製品などを買い占めてくれるのを見越して、店内が充実している。

 

「寝袋と……毛布と、ホッカイロかな?」

 

「ヒートテックをたしかやたら買った記憶があるわ。どこやったかしら」

 

 ネオは、寒さにも暑さにもかなり強い。

 ドラゴニュートハーフなだけあって、体は頑丈だ。

 

 ルクスも、デーモンハーフである以上、人間よりは断然強い。

 問題は、アラクネーのハーフであるユーナだ。

 

 暑さにも寒さにも弱い。

 体の不調は、糸にもひびく。

 

「火口ダンジョンのときは支払いが良かったけど、今回もそんなに高額なのかい?」

 

「金額はまあまあなんだけど……救援を求めているのが、Aランク探索者の城石深玲なのよ」 

 

「ああ、ルクスの推しの、あの?」

 

「そうよ。多分……喜ぶでしょ」

 

 ネオは笑った。

 

「ユーナはルクスに甘いなぁ」

 

「グランディアまでお供してるやつに言われたくないわよ!」

 

 先週の話を持ち出されて、ネオはさらに笑う。

 ユーナは、意地でも自分の甘さを認めない。

 

「ああ、あったよ。寒さに弱い半妖用の極暖ヒートテックが。靴下もある」

 

「――今回の戦闘メインはネオ、アタシは補佐よ」

 

「まあ、その代わり夜の見張りは、ぼくとルクスに任せて寝るんだね」

 

 真冬用のブーツを取り出しながら、ユーナは荷物の山に並べる。

 過剰すぎるくらいの装備だが、ルクスのアイテムボックスにはなんなく入ってしまう。

 

「それにしても、あのゲボクが戦力になる日がくるなんてねぇ」

 

「なに、僕はしっていたよ。妹への愛のパワーなら、レベルあげくらいなんのその」

 

「あんたのキモさまでは普通いかないわよ……さすがにゲボクが可哀そうよ」

 

「どういう意味だい」

 

 ユーナは、ルクスがユミエラにむかってマイエンジェルー! と叫ぶのを想像してみた。

 吐きたくなったので、やはりこれはネオだけのものだろう。

 

「あ」

 

 妄想ついでに思い出した。この仕事が何日かかるか分からない。

 実家に電話をいれて、ユミエラを迎えにいくように言付ける。

 

 ついでに、ユミエラにもこれから迎えがいくことを電話した。

 ルミリの実を手に入れる前のユミエラだったら、少し泣きそうな声をだしただろう。

 

 いまは、素直に世話になることと、兄を頼むように言って、電話は切れた。

 

「ユミエラも大人になってきたわね……違うわね、体調が少しでもマシになって本来のあの子になっていくのかも」

 

 ユーナの知っているユミエラは、兄思いでそしてルクスよりしっかりした女の子だった。

 課金する兄をしかり、掃除を頑張る十歳の少女だった。

 

 たった一年で、病んであんなにかよわくなってしまうとは、誰もが思ってもみなかった。

 

「ただいま戻りましたー!! 一週間分は買い占めましたよー!!」

 

「よしルクス、この荷物も全部入れてくれ」

 

 ユーナは、ため息をついた。

 ここから、過酷なダンジョンに戻らねばならない。

 

 三月が近い、この寒さが適温のユーナには気が重かった。

 それでも、請け負った仕事は必ず終わらせる。

 

 事務所のためにも、ルクスのためにも。

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