第46話 たまには恋の話でも
グランディアへのゲートに一番近い半妖コンビニ、すねいくではバックヤードが混雑していた。
店番をするケニーと、スライムを入れたプールを広げるルクスとアリアだ。
ルクスはもう今日のシフトを終えている。
「慣れてくると、ホワイトスライム生まれるね!」
「それをこっちに移動してしばらくアルミホイルを食べさせれば……!」
「もーー少し小さい声にしてね、これでもお客さんきてるんだから」
盛り上がるルクスたちに、ケニーがやや低い声で釘をさす。
「それで、今度の買い付けはどのくらいなの?」
「マナアシが400万で売れたんで、100万以上??」
「売りたいんだけどさ……生産が追い付かないんだよ。他店からもリザードマン食品買い取って、ぼくのアイテムボックスにぎゅうぎゅうに入ってるんだけど。母さんの分も使って、もうぱんぱん。でももう少し期間おけば、まだ買い取れるよ」
金髪碧眼のケニーの母はエルフだ。
寿命の差をものともしない恋愛結婚だが、愛妻家のケニー父は妻を店舗に立たせない。
美人すぎて、変な客がきたら困るそうだ。
「今のうちに、あるだけ買い取りましょうか? 俺のアイテムボックスならゆとりありますよ」
「ぼくのも大きいほうなんだけどね? ルクスくんの大きさはちょっとおかしいからね……」
ケニーはアイテムボックスから、ケースで商品を並べてバーコードを読み取っていく。
すぐさまレジが見えなくなったので、ルクスは終わったものをせっせと収納した。
ありったけ出したものの清算がすむと、ケニーはため息をついた。
「やー、良かったよ。ピースメーカーの業務がさしつかえるレベルで、商品入ってたから」
「こちらこそ、お世話になりっぱなしで……」
バックヤードで保管などをしないのは、それだけ賞味期限を気にしてくれているのだ。
まさかのケニー母まで巻き込んでいるとは思わなかった。
「なにせ、継続的な売れ筋じゃないからね。とりあえず前回と今回限りってことで、父さんも必死でかきあつめてるよ。でもいい臨時収入で喜んでる」
「イヤー良かった、良かった」
その時、すねいくのバイトが入店してきた。
ルクスも時々みたことがあるバイトさんだ。
「あ、北川くん。ちょっと抜けるけどレジ任せていい? この二人はここに放置してていいから」
「いいっすよ、着替えたらすぐレジ入ります」
バックヤードの大量のスライムは多少驚かしたようだが、バイトの北川はすぐに制服に着替えた。
「ルクスくん、今からちょっと家に戻って母さんのアイテムボックスから商品、引っ張り出してくるよ。まとめて受け取ってもらっていいかな?」
「勿論、お任せですよー」
ルクスは、タッパーに入った高級豚――ジャイアントオークの肉をケニーに差し出す。
数にゆとりがあるので、おすそ分けだ。
「ありがと、おいしそうだね」
「昨日、あほ兄と食べたんですけど、すごーくおいしかったですよー」
ホワイトスライムにアルミホイルを与えながら、アリアが味を保証した。
ドラゴンブレスを放って大活躍したSランクピースメーカーも、溺愛する妹にかかってはズタボロだ。
ケニーは肉を空いたアイテムボックスに放り込んで、自転車で出て行った。
マナ石というクリーンエネルギーがあっても高いので、庶民はむしろ自転車乗りが多い。
「ルクスさん、けっこうシルバースライム増えてきましたね!」
「アリアちゃんのおかげだよー! たくさん動画とかメモとかとってくれて。ほんとうにありがとう」
ルクスがふいにアリアの赤毛を撫でたので、アリアの頬が染まった。
ルクスとしては、ユミエラとは別の妹の感覚だ。
「ユミエラちゃんのためでもありますです……それに、その、ルクスさんの、お役にも……」
「うんうん、ありがたいよぉぉ」
いまのところ、この恋心は一方通行のようだ。
無邪気と下心の二人は、せっせとスライムを足してはホワイトスライムへと変化させる。
リザードマンの戦士ガイルに渡した分を含めると、シルバースライムの総数は四つだ。
本当は六個以上だったのだが、慌てて掴んで死なせてしまうミスで消えている。
アリアの怪力と、レベルが一気にあがってしまったルクスは力の調整を失敗していた。
「しかし、スライムを掴むのは難しいねー……」
「ルクスさん、私、家でもやってみるのでスライムを――」
「だめだめだめ、あとは俺が寝る前に家で増やすから! まだ時間はあるし、無理しなくていいんだよ」
アリアからすると、無理では全くない。
しかし、ルクスとしては残業を押し付けているようで気が咎める。
残業ダイスキ部に所属するだけあって、他人のオーバーワークは気になるのだった。
「アの実が実るのが、三月三日。だから、二月二十八日に一旦確認と、商品をお届けにいこう。それまでは、ケニー先輩から商品買いつつ、シルバースライムを増やしていくから。フォルン村にいけばホワイトスライムが捕まるし。まだ二月の半ばだし、アリアちゃんもそれまで休憩してね!」
「時々は……シルバースライムのお手伝いをしては、駄目ですか?」
アリアとしては、会う口実が欲しい。
毎度職場に押しかけても、ユーナにこれ見よがしにため息をつかれるので。
「ただいまー! 北川くん、ルクスくん、戻ったよー!」
入店音とともに、ケニーの声がした。
ルクスは、微かに笑ってみせる。
「そのうちね?」
そのまま、またケニーと商品を買っては収納――を繰り返すルクスは、アリアの腰が自分の笑みでくだけたことをしらない。
このヴァンパイアハーフ、しっかりしているときは時々とんでもない色気を放つときがある。
アリアの後ろで、スライムが伸びたり広がったりしながら、少女の恋を見守っていた。




