第四話 人間にスキルをもたらすもの
スキルオーブは、ダンジョンでとれる限定スキルだ。
球体で、中にスキルが入っている。
一般的に弱いものは時間制限がなく、持ち帰って販売されることが多い。
ルクスの持っている鑑定・Cもそのたぐいである。
今、手にしているものは「完全解毒・S」と書かれていて、残り秒数は十五秒。
使わなければ、スキルオーブは自然消滅してしまう。
慌ててアイテムボックスに投げ込んでみたが、出すと秒数は進んでいる。時間停止の阻害は受けないらしい。
消滅五秒前、ルクスは慌ててオーブを自分の身にしみ込ませた。
一瞬白く光るが、特に異変はない。
「あ~~勿体ないな……売ったら……何万? もしかして何十万? あ……ユミエラに使えばもしかして病気直ったかも~いや、病気は解毒で直らないか……」
ぶつぶつ呟くルクスは、ポイズングレーウルフ二体に突撃された。
牙を武器にしたまま、ルクスは一体の喉に手を突っ込み脳にねじ込む。もう一体は反対側から腹に嚙みついたが、ルクスに蹴とばされて体勢を崩した。
「くっそおお、今度はシャツが真ん中に穴が開いたじゃんかー! 片袖だけ縫って済むなら新しいオシャレ★ に思われたかもしんないのに」
修復不可能になったシャツにキレて、牙の武器を胴体に何度も突き刺す。
「あっ、一度で倒さないと、あとで素材の毛皮が売れにくくなるんだった……」
倒したポイズングレーウルフを持ち上げて、ルクスは先ほど手に入れたスキルを思い出した。
完全解毒・Sならば、この魔物の血を吸ってもいいのでは?
あまり後先を考えないことで知られているルクスは、そのまま口をあけて牙を刺す。
まがりなりにもヴァンパイアハーフ、血をすすって小腹を満たした。完全解毒のスキルが働いていなければ、泡を吹いて倒れていただろう。
「おー、何気に便利かもって、そうそう毒系の魔物と当たらねーし!」
ポイズングレーウルフ一体の血を飲んで、アイテムボックスに収納する。
スキルオーブをゲットしたものの、このダンジョンに巻き込まれたことはプラマイゼロにはならない。
地道に倒しながら進むが、まだ救助がくる気配がなかった。
「おっかしいなあ、単発型なんて六時間しか持たないのに……ピースメーカー同士で依頼を揉めてるか取り合ってるか、かな?」
だが、救助が来てその費用の二割を払わされるのはルクスだ。
この際死ぬ一歩手前で救助される前に、自力で脱出するしかない。
「大体、先輩だってさぁ? 日頃の苦労をくみとって一回や二回や三回くらい、ただで助けてくれてもいいじゃんね? 荷物係に雑用に掃除に、オレってけっこう頑張ってるよ思うよ?」
ぶつくさ言いながらも、ルクスは魔物を屠り続ける。
Eランク相当のダンジョンだから、出来ることであった。
普段は、先輩のネオやユーナのSランクに合わせた仕事なので、こうはいかない。
問題は、この単発型ダンジョンのボスだ。
ボスを倒しても、倒さなくても時間は六時間あるが、外に出るにはボスを倒さないと帰還出口が開かない。
ルクスが勢いよく一歩踏み出したが、その足は空ぶった。
大きな傾斜というよりは、それはもはや緑の谷だったのだ。
「あああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」
ルクスの悲鳴がダンジョンにこだます。
滑り落ちていくルクスに、ポイズングレーウルフが噛みついていくが落下速度ですぐに牙を離すので、ルクスはあちこちが歯形だらけになっていった。
「いってぇぇぇ!! なんなの? 踏んだり蹴ったりなんだ――け、ど……」
ゴツンと鈍い音がして落下が止まる。
顔をあけたルクスが見えたものは、巨大な角をもつビッグポイズングレーウルフのボスが居た。
「に、逃げっ……!」
ルクスの右足が消失した。
ビッグポイズングレーウルフとしては、ルクスは格好の餌だった。
「いっつうううううう!! オレの足、消えたんですけど!?」
普通なら、そんな実況をする暇も気力もないが、ルクスはデーモンハーフでもある。痛みには耐性が強い。
そうでないなら、とっくに痛みで狂っている。
足を再生しながら、武器の牙を振るうが、ルクスは今度は右手を無くす。
防御と回避が甘いせいで、攻撃しながら食われるのには慣れっこなのだ。
「弱点っはッ! ここにある――心臓がっ」
武器はとうに呑まれた。
ルクスの黒髪が、瞬間、白に染まる。
鋭い爪になった手が、ビッグポイズングレーウルフの心臓を掴んで引きずり出した。
「はぁ……はぁ……! もう服も死んだな……」
息をきらすルクスの前に、光が差し込んだ。出口だ。
ダンジョンボスの死体をアイテムボックスにしまうと、ルクスはよろけながらダンジョンを出る。
月の光が、わずかに眩しかった。
ようやく、ダンジョンから脱出。
服だけがズタボロです。




