第38話 やらかすルクス
ユミエラの隣で、ルクスが飛び上がった。
一度スマホを取り落として足に直撃させて、また落とす。
その不審な動きは、料理中の鍋に、あやうくスマホをダイブさせかねなかった。
「どうしたの? お兄ちゃん」
「あ、だ、大丈夫だよ! あちち!!」
一月の半ば、外は冷えている。
ユミエラ向きのブラッド入りの鍋を作っていたルクスは、火傷をした。
再生能力に任せて放っておくと、ルクスは再びメッセージを読み返す。
”マナアシの精査が終わりました。マッドクロコダイルの皮を含めて550万円になりました”
卯実誠二のメッセージは、何回読み返してもそう書いてある。
確かに湿地帯の半分を丸はげにさせるほどマナアシを刈ったが、これはほぼマナ石と言っていい値段だ。
ルクスは、相変わらず不慣れな金額に浮かれるより怯えていた。
全額、リザードマンの食品に変えていいものか。
マッドクロコダイルの皮の分だけ、家賃に回すべきか。
「どどどど、どうしよう……ケニー先輩に相談しようかな……」
「お兄ちゃん……?」
ユミエラが、ルクスの正気を疑う声を出す。
そして、それを追いかけるようにお腹の音が鳴った。
ルミリの実を食べて以来、前の食欲からは二割減といったところだが、依然として十人前ほどは食べている。
「ああ、ごめん、ユミエラ! さきにユミエラだけでもごはん食べてて!」
テーブルに鍋敷きを置くと、ルクスは大鍋を置く。
炊き立てのご飯と一緒に渡すと、ユミエラはさっそく鍋の肉を米の上に乗せた。
「うーんうーん、あ、ユーナ先輩に渡すユミエラの今後の食費もあるし……家賃と、あとは……?」
何度も、買い取りに関して推しの城石深玲の名前を借りている。
いまこそ、投げ銭をして感謝を表すべきではないだろうか。
おりしも、深玲は配信真っただ中だ。
一万……いや、お礼も兼ねているし、何なら太っ腹に十万……?
画面ごしの微笑は久しぶりで、ルクスの心はとろける。
1……0……0……
投げ銭の額を入力していると、ユミエラの歓声が聞こえて、ルクスはどきりとした。
「このお肉止まらないー! お兄ちゃん、食べたことない、こんなおいしいお肉」
「それ、キマイラの肉なんだよ。そうそう手に入らないやつ」
「えっ! 高かったんじゃ……」
「いや、まだあるから食べていいよ。肉は、自力で――」
果たして、デーモンモードは自力と言っていいのだろうか。
いや、運任せは良くない。
デーモンモードのルクスは、半分自覚がない。
無意識と本能が、勝手に体を操ってしまう。
ルクスは半分寝ているような状態と言っていい。
まず、ルクスは本能に呑まれないように強くなるしかない。
「とりあえず、10ま……ああーーーー!!」
既に、投げ銭は投げ終わっていた。
音声をミュートしていて気が付かなかったのだ。
しかも、その額は何故か100万。
ユミエラの声に振り返ったときに、0を多く押していたらしい。
「ど、どーーする……せっかくの550万から100万は支払いにあてないとっ!!」
身の丈に合わない金が一部、うっかりから吹き飛んだ。
冬なのに、冷や汗で背中がびしょびしょになった。
ルクスは、頭をかかえる。
大金にうかれてやらかしてしまった。
「貯金……そうだよ、貯金はだいじだよ……!! ちゃんと後のことを考えないと!!」
グリフォンやキマイラの素材は、まるまる残っている。
それはユーナから、グランディアの現地通貨がほとんどないなら持って行けと忠告されたからだ。
頭数には計算しないことにして、ルクスは電卓画面で計算を始めた。
どこか遠くで、犬の悲しい遠吠えが聞こえてくるのだった。
久しぶりのやらかし




