第37話 試験?受けません
ダンジョンに投げ込まれた獣人の子供は、ダンジョン局に預けた。
職員によっては、手数料を払ってでもピースメーカーに預け先を探させることが多い。
だが、今日の職員はマシだったのか「お疲れさん」と三人を解放してくれた。
「ルクス、本当に昇格試験を受けないのかい?」
「ほへ? ネオ先輩、本気で言ってるんですかぁ?」
「ああ、そうじゃないとこの事務所以外の仕事はできないだろう?」
ピースメーカーであれば、ピースメーカーの掲示板でソロの仕事も受けられる。
そこで物を言うのがランクだ。
Fランクでは、掲示板だと荷物持ちの仕事すら落ちることも多い。
ユーナもネオも、面接でバカでかいアイテムボックスと、再生能力を見ていなかったら雇っていなかった。
そうでなければ、今日のようなSランクダンジョンではお荷物で連れていけない。
しかし、今のルクスはレベルに見合わずSランクモンスターを倒していた。
「でも、今の俺はそれどころじゃないし……残業ダイスキ部で有給すら貰ってる立場ですよ? ユミエラの件が終わるまでは試験は受けないですねー。……受講料、高いし……」
最後にぼそっと付け加えたものが本音だ。
試合形式なので、それなりに試験の受講料は高い。
極貧のルクスとしては、許しがたい値段である。
「まあ、万が一ウチで有給貰ってソロ活してたら殺すわね」
「だから~~そんなこと絶対にしないですよーー」
行きは大疾走した道を、三人でのどかに歩く。
派手な美貌のユーナは様々な視線を浴びながら、平然としていた。
「そうだ、領収書とってパンツスーツでもジーパンでも三着くらい買ってきなさいゲボク。さすがにジャージは……」
「でも、すぐに破れるんですよぉぉ? そんないい素材で三着も買っていいんですかー?」
「ユーナがいいと言えばいいんだろ。遠慮するな、ルクス」
普通はいい素材のほうが喜ぶのだが、不満げにルクスは頷いた。
スマホが鳴って、メッセージを知らせてくる。
この時間だとだいたい賢人からのメッセージだ。
「そういえば……ネオ先輩ってけっこう探索者に混じるじゃないですか。シュラっていう配信探索者知ってますか?」
「知ってるけど……ルクスが好みとは思えないチョイスだね。まあ、知ってるといってもゲストでパーティーに入ったことはないし、彼の半妖嫌いは有名だ。今後も関わることはないね。なにか禍津修羅に気になるところがあるのかい?」
禍津修羅。人間だからフルネームがあって当たり前だが、苗字は初めて聞いた。
「気になるというか、グランディアを荒らしてる自称勇者が、シュラと名乗ってるんですよぉ。半妖否定してる配信の探索者と同じひとかなって」
「勇者と名乗って、ろくでもないことをしてる??」
「そうです。まだ二つの場所しか行ったことがないんですけど、どこもシュラの被害にあってて」
「修羅のやりそうなことだ。おそらく同一人物だろうね」
「くだらないわねー。悪の勇者ってなによ。いっぺん滅びればいいわ」
ユーナが、爪のマニキュアの具合を見ながらため息をついた。
マグネットネイルが、綺麗に映えている。
「そいつなら、アタシに告ってきたことあるわよ。半妖に告白したと知ってブチ切れてきたけど」
「ええーーー!!? そんなことが!? 大丈夫だったんですか、ユーナ先輩!」
「当たり前よ。ぼこぼこにしてやった――といいたいけど、強かったわね」
残業ダイスキ部の事務所に戻ってきた三人は、一名を除いてソファにもたれた。
当然、例外であるルクスはお茶と小腹を埋める何かを探す。
「魔法攻撃無効スキルとか、経験値倍増とか、何千万もするスキルオーブ買いあさってて。アタシに負けたあと、攻撃反射スキルを買ったらしいわ。そこから負けなしみたいね。告白されたことを謝罪しろとか、いっときわけわからない書き込みを、事務所の掲示板にやたら書き込んできたわね」
「それもう、ただの荒らしじゃないですか……」
「あの時は事務所入りたてのケニーが、毎日掲示板に張り付いて書き込み削除してたわねー」
「うう、ケニー先輩……」
同情のあまり泣きかけて、ルクスは気が付いた。
グランディアではケニーはシュラの名前を知らないように見えた。
実は、内心でげんなりしていたのだろうか。
「ケニー先輩は、シュラってひと嫌ってるんですかね」
「さあ? さすがにアイツも自分の名前を出して書いてなかったから、ケニーは相手を知らないんじゃない――ちょっとゲボク、お茶はまだなの?」
「はい、ただいま!! そっか、相手を知らなかったのか……」
知っていれば、さすがに何かは言ってくれただろう。
それにしても、ユーナからシュラの情報を聞くことになるとは思わなかった。
ユーナは嫌いな相手には、徹底して冷酷だ。
ルクスはお茶の支度をしながら、見たことはないが悪行だけは聞くシュラが振られるシーンを想像する。
少なくとも、グランディアでは喜ばれそうな気がした。
口にするのは、覚悟がいりそうだが。
夢想するルクスに、ユーナのかかと落としが決まるまで、あと十秒――。




