第36話 S級ダンジョン③
「ゲボクーー! 出るわよ!」
ルクスは倒したモンスターをアイテムボックスに入れた。
ユーナたちと合流しようとしたが、幼命探知の反応は遠ざかっている。
ダンジョンで遭難させられた子供は、もうネオが抱えているのだろう。
スキルで居場所を探知しながら、ルクスは進む。
デーモンモードになったときに、周辺の敵を綺麗に掃除したらしい。
モンスターに襲われないまま、なんとか合流するとネオもユーナも傷一つなかった。
「うあぁぁぁぁぁぁ、置いてかないでくださいよぉぉぉ」
「相変わらず、服がズタボロだな!」
「……まあ、無事ならいいけど」
塩対応のコメントの中、ルクスはネオが抱いている赤ん坊を覗き込んだ。
まだ一歳にもなっていないだろう子供は、頭から狼の耳が生えていた。
誰がこの子を、こんなところに投げ込んだのか。
「迷宮児童支援センターは多分、空きがないな。セーフハウスを探すしかないな」
ルクスはアイテムボックスから、こういう事態に備えた抱っこひもを渡す。
首が座っていない赤ん坊を、いつまでも戦闘しながら抱えておくのは危険すぎた。
ルクスが抱っこしないのは、回避が絶望的だからだ。任されたことがない。
「仕方ないじゃない、迷宮児童支援センターは国営よ。民営のセーフハウスに頼るしかないわ」
ユーナが先頭を歩きながら、爪からの糸を揺らす。
何故こんなひどいことを! と叫ぶようではSランクは務まらない。
しかも、こうしたことはそう珍しくないのだ。
「ユーナ先輩のとこの、神城家でもセーフハウス幾つか支援してますよねーー? うわっ!!!」
鬼哭丸を持ったルクスが、地面の段差で一人滑る。
ユーナもネオも心配すらせず、そのまま歩いていくのでルクスはひとり言をいいながら立ち上がった。
どんくさいながら、一応、それでも背後の敵には警戒している。
「まあ、幾つかに出資はしてるわよ。半妖の家の中では、儲けてるほうだしね」
「ユーナ、くるよ」
ネオが赤ん坊を抱っこしながら、静かに声をかける。
ネオが本気になれば、ダンジョン内のあらゆるものが見通せる。
生臭い息を吐きつつ、サーベルマーダータイガーが姿を現した。
三体も。
「二体はあたしが倒す! だからもう一体は――!」
「俺がやります!!! 超怖いけど!!!」
ネオを押しのけて、ルクスが構える。
ユーナは左手の糸から拘束の糸を出し、サーベルマーダータイガーが二体を抑え込んだ。
そして右の手をルクスに向ける。
「加速戦歌!!」
高速のバフのかかった糸が、ルクスを囲んだ。
その瞬間に、ルクスの勢いが加速した。
サーベルマーダータイガーの牙を抱え込んで吹き飛ばされ、なおも瞬時に立ち上がって走る。
鋭利な爪と、牙がルクスに迫った。
鬼哭丸が、分厚い肉壁を貫いて、一閃。
心臓を刺して、サーベルマーダータイガーは息絶えた。
「ふぅ……俺にしてはなかなか頑張ったのでは……??」
ネオが、そっと剣を握る手を離した。
見ていられない戦闘なら、仕方なく助けるつもりだったが。
「ゲボク……あんた、Fランクピースメーカーにしては強くなってるじゃない。昇格試験受ければ?」
「えっ!! そんなに強そうでした!!?? かっこいい!??」
「雑魚のゲボクのわりには! って意味よ!!」
実際、以前のルクスならもっとボロボロになっていたし、再生待ちの時間勝負だったはずだ。
ユミエラの為にグランディアに行くようになってから、ルクスは変化している。
ネオは、ふぅんと呟いた。
荷物持ちで役立たず。
すぐに泣いて助けを乞う。
叫んで自滅し、再生能力に頼り切り。
そんなルクスが、こんな成長をするなど思ってもみなかった。
ネオは、異世界グランディアに興味をもった。
そのうち、遊びにいってもいいかもしれない。
レベルは90になっているが、この世界にカンストはない。
「うわ、ダンジョンボスも瞬殺……さすがユーナ先輩!」
「当たり前でしょ、ほらとっとと出るわよ」
ダンジョンボスを倒すと、三人は外にでた。
滞在時間はざっと一時間。
外には、もう名だたる探索者たちが準備を始めていた。
「あーーーっ!! あれは、城石深玲様っ!!!!」
白く輝く装備に、姫カットのロングヘアの人物を見つけてルクスはいきなり土下座した。
さっきSランクのモンスターを倒した面影は、ゼロだ。
探索者たちの失笑を浴びる中、ユーナがルクスをひったてて通り過ぎる。
ネオは、無関係の顔で離れた場所を歩いた。
ルクスは変わったようでいて、基本的には変化していないようだ。
残念なその姿は、これからも続いていく。




