第35話 S級ダンジョン②
場所は、すぐにわかった。
ダンジョン局の職員が、赤いライトを振り回してユーナたちピースメーカーを誘導している。
「幼命探知!!」
ルクスはユーナたちから遅れること三分半、S級ダンジョンに飛び込んだ。
ダンジョン消滅までの時間をカウントするブザービーターというアイテムを受け取り損ねたが、早急に救助することが目的だ。
長居をすることはないだろう。
ユーナやネオとははぐれているが、目的地は幼命探知のスキルで見えている。
スキルでは、子供の命の場所を炎のように伝えてくるが、今伝わってくる炎は、か細かった。
そうとう幼いか、もしくは命の危機か。
半妖ならば、人間より襲われやすい。
「うううう、無事でいてくれーーー!! 先輩間に合ってーーー!!」
サーベルマーダータイガーが、ルクスの行方を阻んだ。
目標の到達地点よりまだ、遠い。
それでも、ルクスは自分が駆け付けるより囮になったほうが有効だとさとった。
鬼哭丸を構えたが、サーベルマーダータイガーの長い牙がルクスを襲う。
グランディアでは、マッドクロコダイルなどを倒したが速さはくらべものにならない。
あっという間にルクスは、鬼哭丸を持った右手ごと食いちぎられた。
「こんなもんじゃないぞーーーー!! くるなら、こい!!!」
今の自分は囮だ。
ダンジョンの中に放られた子供よりも、弱くておいしそうに見えなければならない。
ルクスはすぐさま右手を再生させながら、食われている元の手から武器を抜く。
柄はアイテムボックスに放り込み、サーベルマーダータイガーの動きに合わせた。
視線は、逸らせない。
にらみ合いながら、ルクスの背中に冷や汗が流れる。
いくらでも再生するのはルクスの強みだが、それでもなお目の前の敵の殺意は怖い。
「いくら弱くても、俺でも役にたつことがあるんだーーー!!!」
振り上げた鬼哭丸は、サーベルマーダータイガーの表面をかすって止まる。
飛び掛かられたルクスは、左足に微かな痛みを感じた。
モンスターの牙が刺さって、血が流れ出る。
角度がおかしいのは、間違いなく折れていた。
「俺を食べたいなら、食って見ろ……!! その前に再生してやる!!」
ルクスの黒髪が、ぞわりと白くなる。
背中から、漆黒の翼が生えてダンジョンの中に広がった。
赤い瞳が紫紺に染まる。
デーモンモードの完全体だ。
サーベルマーダータイガーが、怯えたように一歩引く。
ルクスは黒い翼で襲いかかると、いとも簡単にサーベルマーダータイガーの魂を引き抜いてかぶりつく。
背後から二体のグリフォンがルクスを狙ったが、デーモンモードのルクスは簡単にそれを避けた。
紫の魔眼でグリフォンを麻痺させると、その体をダンジョンに叩きつける。
グリフォンは、吐血して地に這った。
ルクスは、すかさずその命を奪い取り、咀嚼する。
「どうした……? そんなものか……?」
高貴なデーモンの血は、S級モンスターを引き寄せる。
キマイラが二体、ルクスに迫った。
血に酔ったキマイラは、猛然とルクスにとびかかるが目標を見失う。
翼を広げたルクスが、上空から二体の魂を引っこ抜いた。
「ゲボクーーー!!? 遅いわよ、どこにいるの?」
「ルクスはまだあっちにいるね」
ふいに聞こえたユーナたちの声に、キマイラの生命を食べ終わったルクスの正気を誘う。
じょじょに黒髪に戻っていくルクスは、頭を抱えた。
デーモンモードのルクスは強い。
サーベルマーダータイガーに、グリフォン二体、キマイラ二体とSランクのモンスターをすんなり倒した。
今までなら、それでよかった。
ラッキーを喜びつつ、その恩恵に飛びつくだけ。
けれど、ユミエラの為には今後、意図して自分が強くならないといけない。
今日は仕方がないとはいえ、グランディアではこの力をあてにして進むのは危険だ。
負傷したら必ず出るわけでもないし、空腹はいつものことだ。
この先、自分が強くなるためにはこの力に頼っていてはならない。
「くっそーーー。普段からこのくらい強くならないとダメだぁぁぁ」
目指すはSランクの高み。
それでも、ルクスは目指さなければならない。
その難関の頂上を。




