第34話 S級ダンジョン①
二泊三日、グランディアに泊まったルクスは、卯実家にマナアシを大量に預けてきた。
仲介を頼む手間賃として、マッドクロコダイルの皮を渡したのだが、誠二からは断られてしまった。
むしろ、その皮も売ってほしいと言われて六体分の皮も預けてきたのだった。
「しっかし、どうしたら見つかるんだろ、シルバースライム……」
ドラゴン・アイでも見つからないということは、いないということだ。
アリアには自宅でじっくり寝てもらうとして、ルクスは事務所に向かう。
一件の仕事を終えて事務所に控えているネオとユーナに合流するつもりだ。
メッセージが入って、プロテインをこよなく愛するネオから買い出しを頼まれた。
ルクスは薬局によってレジに並んでいる間、シルバースライムを検索する。
すると、幾つか検索にヒットした。
ほぼ永続型ダンジョンで倒した報告だったが、ルクスが最後まで取っておいた城石深玲の配信だけは違った。
色んなカラーのスライムを収集しようというタイトルで、お互いにスライムを食べさせ合うと違う色のスライムが生まれる実験について配信している。
「こ、これだーーーーーー!!! さすが深玲様ーー!!!」
シルバースライムを見つけるのではなく、シルバースライムを作ればいい。
過去の湿地帯では、シルバースライムが単一だったのだろうが、色が薄いものは淘汰されたのだ。
なにと何をかけあわせればいいかが分からないが、試してみる価値はある。
レジの列から、怪訝な目で見られながらも会計をし、領収書を貰う。
いつもならば「残業ダイスキ部」という会社名を言うのがつらいが、今はテンションのあまり踊りかねないルクスだった。
「おはこんばんにちはーー!!」
「意味不明の挨拶ね、ゲボク。うまくいってるの?」
「ルクス! 僕のプロテインは!?」
「はいはい、買ってきましたよーー」
青汁にプロイセンを混ぜた謎の液体をネオに渡しながら、ルクスはユーナに半笑いした。
まだ完全に解決はしていないので、微妙な笑い方だ。
「シルバースライムを生み出さなきゃいけないんですよ、ユーナ先輩」
「シルバースライム??」
ユーナ用の紅茶を蒸らしているルクスに、ユーナは端麗な顔をしかめた。
「ついさっきゴールドスライムとシルバースライムの山を片付けてきたけど??」
「うあぁぁぁぁぁぁ、ニア差ーーーー!! 一日早く帰っておけばよかったーーーーー!!!」
「シルバースライムなんか、なにに使うのよ」
「実は、リザードマンのところに行っていて……」
紅茶のカップをあたためながら説明すると、ユーナはため息をついた。
スライムはどこにでもいるモンスターだが、探すものではない。
いないときはいない、そういういきものだ。
そうでなくとも、単発型ダンジョンでは出会いがないのがスライムだ。
今日の仕事が、異例中の異例だったのだ。
「まったく、運がとことんないわね、ゲボク」
「はいぃぃぃ……せめてメッセージを入れておけば……」
「グランディアから送れないでしょうが」
ルクスに冷たい現実を突きつけておいて、ユーナは淹れたての紅茶を飲む。
すらりとした足を組むと、それだけでモデルのようだ。
「シルバースライムねぇ……アルミホイルでも食べさせたら変わらないかしら」
「確かに食べるものでも色が変わりますよね、スライム……」
アルミホイルを買いこもうかと悩みだしたルクスを放置しようとしたユーナは、スマホの荒々しい音にはっとした。
ダンジョン局とユーナの直通電話の音だ。
ギルドを介さない時の、この電話の難易度は決まっている。
Sランクダンジョンだ。
「もしもし……はい、いけます。住所をください」
ネオは装備に手を通し、マナブレードを装着する。
ルクスは気合だけ入れることにした。特に特別な装備はない。
「行くわよ、場所はすぐそこだけど――子供が投げ込まれたそうよ」
住所を聞いて、ネオは二階から飛び降りて走り出す。
ユーナも装備をまとうと、糸を空中に繰り出して、家とビルにひっかけながら高速で移動し始めた。
ルクスは、施錠をしっかりすると二人のあとを追いかける。
残念ながら、半妖の子を産んだ親が突発型ダンジョンが発生しやすい場所で放置する――そんなことは珍しくない。
誰もが、ルクスのように再生できるわけもない。
一秒一秒が、おしい。
ルクスの額から、汗がたらりと流れた。
命と時間が直結する、この事態に――。




