第32話 食われかけるヴァンパイアハーフ
マナアシがもはやお金にしか見えないルクスが、夢中になって刈っている。
それを、少し離れた場所からケニーとアリアが見ていた。
「ルクスさん、可愛い……! ユミエラちゃんは、泊りのことオッケーなんでしょうか?」
「一個二十万って聞いて、これからは外泊もいいって言ったみたいだね。ルミリの実で、けっこう体調もよくなってメンタルも回復したみたいだし」
「なるほどです。じゃあ、肝心のシルバースライムは私にお任せです!」
「え……あ、ドラゴン・アイか!!」
鑑定をしのぐその目には、どれだけのことが見えるのか。
「はい、どこにいるかは見えます。しかもスライムはアイテムボックスに入りますから」
「入るの?? アイテムボックスっていきものは入らないはずだけど……」
「小さな虫やスライムなんかは入りますよ。十六の時にダンジョンで兄の代わりに駆り出されましたから」
一番若くても経験値のあるアリアは頼もしい。
シャツが泥だらけになって、脱ぎだしたルクスの姿に興奮しだしていても。
「じゃあ僕は、草木魔法でたくさん草むらを作るかな。スライムが好むしね」
ケニーはハーフエルフが得意な草木魔法で、沼地や丘に草を生やしながら歩き回り始めた。
アリアも目をこらしながら、時々ルクスに意識を持っていかれつつシルバースライムを探し回る。
ルクスは、時々奇声をあげながらマナアシ狩りに集中していた。
リザードマンの子供たちに、そんなルクスは面白くうつったらしく同じように奇声をあげながら周囲を踊っている。
空がとっぷりと暗くなり、手元が見えにくくなってからルクスは気が付いた。
夜空に月が浮かんでいる。
周囲にいたリザードマンの子供たちも、いない。
「うわーーー、いつの間に夜!? そういえば、アリアちゃんとケニー先輩は!? これが大金になると思ったら意識がトんでいた……!!」
ルクスはマナアシを取るのに直線状に突き進んでしまい、最初にいた丘が遠くなっていた。
しかし、そこにはかがり火が付いていてケニーとアリアの影が黒く動いている。
「アリアちゃーん、ケニーせんぱ~~~い!!」
ルクスは、ぼろいテントを持ってきていたが、二人は泊まりの用意はしてきたのだろうか。
ルクスのアイテムボックスの中には、レッドバーニーの肉や調味料などがたくさん入っている。
バーベキューでもしようかと、来た道を戻るルクスは頭上からの殺気に気づくのが遅れた。
「うわぁぁぁぁぁ助けてええええ!!!! 俺なんて食ってもおいしくないよ~~!!」
ルクスはワイバーンに捕まれて、空に浮く。
じたばたともがくが、ワイバーンは地面にルクスを叩きつけた。
数か所の骨折と、筋肉をひねる。
「だからーー俺にそんなことしても意味ないんだって、ワイバーンさーーん!!」
モンスターに呼びかけたところでどうにもならないが、どうにもならないをするのがルクスといういきものだ。
再び強い衝撃と、眩暈が襲う。
弱らせてから食べるつもりのようだが、ルクスには利かない。
再生しながら、鬼哭丸で翼に切りつける。
鮮血が散って、ワイバーンがもがいた。
「俺の弱さを知らないのかーー!! ここでかっこよくバサッと切れないところで察しろよーー! あーあー月が綺麗だなーー!!」
ワイバーンはルクスの不満を聞いている場合ではない。
体をくねらせて、ルクスを叩き落そうとするが、ルクスは胴体にしがみついた。
硬さはシルバーウルフなどとは、比べようもなく固い。
力を込めて、ルクスは右翼に剣を当てる。
ワイバーンの悲鳴が轟いて、片翼が地面に落ちた。
ワイバーンは、よろめきながら蛇行して、地面に転がる。
「ルクスくん、よけて!!」
ケニーの声がして、ルクスはワイバーンの胴体から前転した。
魔矢がワイバーンの目を貫く。
苦しむモンスターに、アリアが釘バットで心臓を殴打すると、その動きは停止した。
「無事ですか、ルクスさん!」
「声がして振り返ったら、ワイバーンに宙づりになってて、キモが冷えたよ……」
「うううううう、お二人ともありがとうございました……!!」
いまや上半身だけでなく全身どろだらけにだったルクスが、土下座する。
「無事でよかったよ、食べ物はあったまってるからごはんにしよう?」
「そうです、泥もアリアが拭きますです!」
これがユーナやネオだったらそうはいかない。
ワイバーンの肉はおいしいから早く解体しなさいだとか、ワイバーンの目は栄養があるのに潰しちゃったのかい、と小言を食らうに決まっている。
ルクスは、ついてきてくれるのがこの二人で良かったと、深く感謝した。
ひとまず、倒れたワイバーンをアイテムボックスに入れて、ルクスはせっかくの温かいご飯を先に食べることにした。
満点の夜空のした、たき火の火が小さく舞う。
異世界グランディアの月は、白く輝いてルクスたちを見下ろしている。




