第30話 港の特産品
リザードマンの戦士は、ガイルと名乗った。
がたいがよく、すれ違うリザードマンたちには隊長と呼ばれている。
「あのぉ、俺たち入ってよかったんですか?」
「悪かったら入れていない」
ずばっと言われて、ルクスは黙り込む。
ガイルは威厳にあふれていて、少し厳しそうだった。
だが、振り返った顔は苦笑している。
「我がリザードマンは、他の種族を受け入れている。ただ、場所が場所だからな、なかなか来訪者がいないのだ。たまに、この港から海にでる客もくるが、湿地帯がないほうのルートを選ぶのがほとんどだからな」
「ははぁ~なるほど」
港町の中を歩いていても、多少珍しそうな顔をされるだけだ。
それなりに、他の種族がくることもあるのだろう。
アリアなどは、たまに手を振っている余裕がある。
やがてガイルは、一軒の家の中に三人を招いた。
奥さんと思しき女性が、挨拶をすると慌てて隣の部屋へと下がってしまった。
「どうぞ、座ってくれ。――港に用がある客は少ないが、転移石目当てには多少客がくるな。こちらでも、売りに出してはいるが一番の特産品だろう」
「転移石をつくられてるんですか?」
出された敷物に座りながら、ケニーが質問する。
日本では貴重な転移石だ。
ここで買えれば、かなり助かる。
「ああ、我がリザードマンは魔導が得意なものが多い。転移石を多く扱っている。アの実の話と聞いたが、転移石を購入にきたのか?」
「いえ、あの勿論、転移石も買いたいんですが今はとりあえずアの実のことで伺いました」
「アの実のことを、地球の方が知っているのか?」
リザードマンのガイルの口調が厳しくなった。
体をとりまくオーラも増す。
「あの、地球で認知されてるわけじゃないんです! 俺が一応、デーモンロードの息子なので、メモを見て知ったというか、妹がそれがないと助からない病気で!!」
フォルン村では身分を隠したが、ガイルの気迫が怖かったルクスはつい話してしまった。
変に勘繰られるような立場ではないが、ガイルの口ぶりからして地球から来たというのはあまりいいイメージがなさそうだった。
「……ほう? オーデュイン・フォン・レインフォール卿の?」
「息子です、ほら!」
ルクスは、さっと自分の左手首を砕いた。
ガイルがぎょっとして、立ち上がる。
ルクスとしては、手首を切り落としても良かったのだが、家の中を血で汚すのはどうかと思ったのだ。
折った手首はすぐに再生し、ガイルの妻らしき人から出された湯呑みを掴んで見せる。
そのままお茶を飲むと、冷たくて少しすっぱい味がした。
「――驚いた。デーモンの力か」
「あとはオヤジのメモ帳くらいしか、証拠がないんですけど……。筆跡なんて知らないですよねえ」
思えば、この先もこれを聞かれる可能性がある。
証拠がないのは、困るかもしれない。
「いや、村の老人たちはオーデュイン様からアの実の育て方の書き置きを貰っている。だが、信用しよう……ルクス様といったか」
「ただのルクスでいいですよ~」
ルクスは、ほっとした。
次の実のときも、おそらく誰かはオーデュインからメモを貰っている。
筆跡が証拠になるだろう。
再生しても、オーデュインの息子だと言い張るのは苦しい。
デーモン族ならば、大体は再生が出来る。
「しかし、オーデュイン様の息子殿とあっては……」
「いやー、俺自体は弱いので……別に発明もないですし」
ルクスは自分を下げているつもりではない。
ただ、事実を述べているつもりだ。
「しかし、呼び捨てにはできん。ルクス様と、ケニー殿とアリア殿は、アの実を取りに参られたのか」
「収穫時期がまだなのは存じています、でも私たちが手に入れられるのかが分からなくてお邪魔させていただきました」
アリアの形のよい唇が、少し引き攣っている。
どうやらリザードマンのお茶が合わなかったようだ。
ケニーも、残す無礼はしないものの、口に入れたまま飲み下すのに苦労していた。
無言が多いと思ったら、お茶のせいだった。
「オーデュイン様のお身内ならば、どうぞ――といいたいのだが、我が町は今少し困っておりまして。それをお手伝い頂いたら、お分けするというのではどうでしょうか」
「なんですか!!? ひとに危害を加えること死ぬ以外ならなんでもやりますよ!!」
ガイル隊長は、深刻そうな顔をした。
「実は、シルバースライムを探しているのです」




