第29話 ティルノア港町
ルクス、ケニー、アリアはグランディアのゲートを潜る。
無事にユミエラへの効果があることがわかって、残る四つを食べさせてやりたい。
絶対に完治させようという、盛り上がりがある。
第一の村はクリアしたので、いよいよここからは徒歩でいけない場所の探索が始まる。
いつもの草原フィールドで、三人はそれぞれ手の中の転移石を取り出した。
「あわわわわわ、一個二十万のシナモノを片道で使い捨てる恐怖!!! こ、これを使う勇気が……!!」
「ティルノア港町だよね? ルクスくん、震えてないで確認して」
「もしあれだったら、私残って待ちますです……?」
散々話し合ってきたのに、身の丈に合わない金額にルクスが混乱してしまい、三人は草原でもめる。
「初回だからこそ、最大戦力で行くべきだと思うよ」
「俺もそれは異存ないです! 俺は最悪服がずたずたで済むけど、ケニー先輩になにかあっても困るし! 勿論アリアちゃんになにかあっても、すっごく困るんだけど」
ルクスが困るのは、主にアリアの兄、ネオなのだが年下の女の子としても純粋に心配している。
アリアは、ルクスに心配されて頬を染めた。
「ティルノア港町、ティルノア港町……。親父のメモ帳確認しました。合ってます」
重装備のアリアと、弓使いならではの装備をしているケニーと、半袖シャツ姿のルクスは、手の中の転移石に向かって唱えた。
「「「ティルノア港町!」」」
三人の姿は、草原から消えた。
現れたのは、遠くに湿地帯が広がる港だ。
行き来するのは、リザードマンしか見えない。
ひとまず、三人は港町にいきなり入らずに湿地帯に向かうことにした。
「アイテムボックスに長靴があってよかったぁぁ!! 日頃の雑用が生きますね! アリアちゃん、サイズ大きいけど大丈夫?」
「ええ、ないより全然助かりますです!」
「僕も、雑用係だし長靴は持ってて良かったよ」
沼地は、それでも歩きにくい。
沼と沼の間にある小さな丘では、リザードマンの子供たちが遊んでいた。
ルクスたちを見つけて、近寄っていいのかどうか迷っている様子だ。
「こんにちはーー!」
敵意のない笑みで、ルクスが近寄っていく。
人好きする笑顔は、敵意がないことを伝えた。
「こんにちはー」
「なに族?」
「このひと、ハーフエルフだあ」
三人の子供は、足元に大量のスライムを置いている。
色別に分けているようで、ルクスたちも逆にそれが気になった。
「俺はヴァンパイアハーフのルクスだよー。こっちのおねえちゃんがドラゴニュートのハーフ! 地球からきたんだ!」
異世界言語・Cのスキルオーブは仕事をしていた。
自分でも不思議な言葉を話しているのが分かるのに、使える。
「えー、地球ー?」
「じゃ、転移石使ったんだー」
「なにしにきたのー?」
とりあえずは、ここから立ち去ったほうがいい的な意見がないのでほっとする。
ルクスは、かがんで子供たちに目線を合わせた。
「三月三日にしかとれない、貴重な実ってここにある?」
「アの実しってるの?」
「アの実のことなら……ガイル隊長に聞かないとだめじゃない?」
「聞いてこようかー?」
あの実、と言っているのかと思ったがスキルによるとイントネーションが違う。
ルクスは、愕然と悟った。
母の名前はルミリア。
フォルン村の実は、ルミリ。
だから、ここの港町の実は「ア」なのだ。
「あーーーーーーーーー!! ばっかじゃねえの、オヤジーーー!! ルミとリアならわかるけど、ルミリとア!? アってなんだよ、どういうセンスしてんだあいつぁぁぁ!!」
幸運なことに、ルクスの身内への罵倒を聞いたのはケニーとアリアだけだった。
子供たちは湿地を楽々と走って、町の中へ駈け込んでいっている。
ケニーはルクスの突然の絶叫に慣れてきたので、真顔で事情を聞き返した。
淡々とした先輩に、ルクスは父の名づけのセンスをディスりながら愚痴る。
ルクス大好きドラゴニュートハーフなアリアも、その内容にちょっとフォローしかねた。
「大丈夫ですよ、ルクスさん! 名づけが変でも、死ぬわけじゃないし……」
「無理しなくていいんだよ、アリアちゃん……。これ、あとの三個の命名も怖いんだけど!!」
「誰にでも欠点はあるんだよ、きっと」
話している間も、沼からズルズルとスライムがはい出てくる。
青、水色、赤、緑、と色んなカラーだ。
「そういえば、あの子たちスライムを色分けしてましたね?」
「遊びでしょうか?」
「まあ、ほとんど無害なモンスターだけども」
湿地帯の葦をかき分けようとしたアリアが、突然飛び上がった。
「ルクスさん!! これ、マナアシです!! マナ石ほどの純度はないですが、マナをたくさん含んでいるので探索者が乱獲するやつですよ!!」
「え、ほんと!!?? そこらじゅうに生えてるけどこれ全部!!?」
「全部ですよ!」
「ええーー!! ここって宝の山じゃ……」
目の色が変わったルクスの前に、槍が立てかけられた。
百九十センチあるルクスと、ほぼ同じような高さの大人のリザードマンが立っていた。
ルクスと違うのは、鍛えられた筋肉が丸見えのマッチョなことと、しっぽだ。
「お客人、アの実についてここにきたようだな?」
リザードマンの戦士の眼力が、怖い。
そう簡単に、うまくいきそうにない予感がした。
ルクスの父、オーデュインはあらゆる才能に満ちていますが、時々すごく残念なところがあります。




