第26話 野菜は大事!
永続型ダンジョンで、定期的に出る募集にはいくつか種類がある。
基本、人間である探索者だけのもの。
トラブルが起きた時のピースメーカーあてのもの。
そして、最後の一つが低ランクの探索者とピースメーカーにしょっちゅう出る応募だ。
「野菜ダンジョンか……僕の戦闘力が一切生きない仕事だね」
「えり好みしないの! モンスターだって沸くんだから、立派な仕事よ!」
「俺は好きですけどね、野菜収穫するだけだし! 割と安全で」
ネオはやる気なさそうにマナブレードを腰に差して、畑に座る。
過去には海ダンジョンで、新鮮な海鮮を運んだこともあった。
ユーナは索敵と称して畑を背に立っている。
せっせと玉ねぎを収穫するのはルクスだ。
この下の階層には、じゃがいもやにんじんと、収穫するものはたくさんある。
「そういえば、賢人くんが先輩たちに『半妖がー』って言ってごめんなさいって」
「ゲボク、前置きがないわよ。だれよ、けんとくんって」
「探索者の事務所の人かい?」
「違いますよ、前に突発型ダンジョンに迷子になった中学生がいたでしょう?」
ルクスは猛然と土を掘り返しながら伝えたが、ネオもユーナも怪訝な顔をしている。
完全に、忘れ去っていたようだ。
ピースメーカーとして仕事していると、半妖なんてという単語にはよくぶち当たる。
いちいち覚えないのが、プロとしての心構えなのかもしれない。
「ふーん、覚えてもいないけど謝罪は受け取るわ」
「謝罪より、プロテインをくれと伝えてくれ」
「その前に、俺が武器を借りてるんですぅ」
野菜ダンジョンの凄いところは、タネを植えなくてもどんどん野菜が生まれて育つところだ。
あとは、采月ホールディングスを筆頭に魔導ショップが買い取っていく。
鮮度も抜きたてでアイテムボックスに入れるので、取り立ての味がお届けできるのだ。
「そういやゲボクのくせに、いつの間にかいい剣持ってたわね」
「半妖がって言ってた子から借りたのかい? ルクスは妙に人たらしだからな」
「だからー、いい子だって言ったじゃないですかぁ」
「そんなの覚えてないわよ」
山のような玉ねぎを回収して、三人は下に降りる。
にんじん畑に向かうと、グレーバーニーが五体現れた。
「断罪細糸!!」
一番のリーチのあるユーナが、ミスリルより硬い糸でモンスターを刈り取る。
快活なネオが、珍しくため息をついた。
「戦闘は僕に全部譲ってくれないか? ユーナは見張りだけしていてくれ」
「そうですよぉぉ、野菜は俺が全部収穫しますから」
「うるさいわねっ! 社長に逆らうなんて、経済的に死にたいの? ネオ」
ぎゃあぎゃあ騒ぐ先輩たちを放置して、ルクスはせっせとにんじんを収穫した。
野菜ダンジョンのうまみは、格安で取り手が一部買えることにある。
ルクスは指定よりやや多めににんじんを収穫した。
「はいはい、次に行きますよー」
「僕が先頭を歩くよ、ドラゴン・アイもあるしね」
「野菜ダンジョンで何言ってんの。あたしが先頭よ」
さらに下のじゃがいも畑に向かうと、ルクスは突然立ち止まったネオにぶつかった。
「ユーナ、ほんとうに先頭でいいんだね?」
「だから、そういって――キャアアアアア!!」
ルクスはユーナの悲鳴を初めて聞いた。
逆走しようとするユーナに、前に出るネオ。
通路で混乱が起きる。
「なんですか? まさかドラゴンでも――?」
「ユーナが絶対戦えない敵さ」
ニヤリとして、ネオが飛び出す。
下に降りたルクスにも、やっと正体が見えた。
「ジャイアントワーム!?」
二メートルほどの、巨大みみずモンスターが三体、じゃがいもを飲み込もうとうごめいている。
茶色の巨体に、ユーナが階段を駆け上がっていった。
「ルクスはここで待って――」
「じゃがいもの敵ーーーー!! 収穫を盗むなぁぁぁぁぁ!!!! 今晩の飯のメインーー!!」
ルクスは鬼哭丸をもって、突撃する。
今夜のコロッケの予定だったものが、飲み込まれてしまう。
「コロッケが!! 肉じゃがが!! ポテトサラダが!! 消させてたまるかーーー!!」
ルクスの鬼哭丸が一閃する。
一体のジャイアントワームが粘液を垂らしながら、どうと倒れた。
「鬼哭烈刃!!」
二体目のジャイアントワームも、ルクスに胴体を輪切りにされて倒れた。
三体目は、ネオが巨大化させたマナブレードで倒す。
醜いモンスターだが、死骸がいい肥料になるので売れるのだ。
「驚いたなぁ、ルクスがそんなに剣を扱えるようになっていたなんて。しかも、自分からモンスターに突っ込んでいくし」
「じゃがいもの恨みですよ!! ほら、一部粘液で収穫不可能じゃないですか!!」
「ルクスらしい理由だね……ユーナ、もう倒したよ」
「死体を仕舞いなさいよ!! 怖くて降りれないわよ」
ルクスはせっせとジャイアントワームたちをアイテムボックスに押し込む。
アイテムボックスがないネオは、無事なところからじゃがいもを掘り返し始めた。
「ユーナ先輩、もういないですよぉぉー」
「ほんとにほんと? 片したわね? 嘘だったら腕えぐるわよ?」
「そのときは新しいシャツを買ってくださいね~」
恐る恐る戻ってきたユーナは、粘液をみないようにして後ろを向いた。
そういえば、昆虫系のモンスターはユーナは大嫌いだ。
あまり、野菜ダンジョンも今までは請け負っていない。
「もしかして、俺とユミエラの為に……?」
じゃがいもを収穫しながらつぶやいたルクスに、ユーナが凄い形相で振り向いた。
「巨大なアイテムボックス持ちのあんたがいないと出来ない仕事を受けただけなんだからねっ! あたしとネオじゃ、収穫しきれないんだから!!」
「だってさ、ルクス。存分に取るといいよ」
「神だぁぁぁぁ、ユーナ先輩が神だぁぁあぁ!!」
「うるさいっ! 早く次に行くわよ!!」
その後、三人はなすを取り、ピーマンをとり、トマトも収穫した。
途中、ビッググラスホッパーという大きなバッタモンスターが出現したりして、ユーナの悲鳴がまた上がったりしたが。
おおむね順調に、野菜を取って帰還したのだった。
ユーナの弱点は虫のなかでも、うねうねするものです。青虫やみみずは大敵です




