第25話 査定結果
ピースメーカーギルドの解体所で、ルクスは解体の時に出る血をなめながら作業していた。
グランディアで大量のバーニーとウルフを倒してきた。
解体するものがたくさんある。
この分だと、夕食を抜いても平気かもしれない。
そう思いながら、ブラックバーニーに牙をさして味見めいたことをしているとスマホが鳴る。
賢人の父、誠二からのメッセージだ。
先日会った際に、直接連絡先を交換していた。
”査定が終わりました。いつでもお渡しできます”
「おおおおお!!! どうなったかなーー?」
ルクスがいきなり大声をあげたので、解体場にいた他の半妖たちがびっくりして振り返る。
ピースメーカーギルドの解体場は、ピースメーカーギルドに居れば誰でも使うことが出来る。
個人使用しているものと、ギルド職員とどちらもピースメーカーである以上、半妖しかいない。
「残りは後日にして……とりあえず、受け取りにいこ!」
いつもならば、素材をすぐに買い取りに出しているが給料日あとで心にもゆとりがあった。
ルクスは、手を消毒すると血の匂いで臭くないかどうか気にしながら卯実家に向かう。
二度目だったので、迷うことなく辿り着いたがインターフォンを鳴らしてからルクスは気が付いた。
「あ……手みやげとか何も用意してないっ! 非常識かな!? どうしよう!!」
気づくのが遅い。
ルクスがわたわたしているうちに、玄関があいて誠二が顔をだしていた。
ばっちり目があったので、ルクスはあいまいに笑いながら玄関で靴を脱ぐ。
「あの……今回の……」
お礼に、ブラックバーニーの肉でも……といいかけたルクスの前に、賢人が顔をのぞかせた。
「ルクスじゃん!」
「賢人くん!」
「こら、賢人! 命の恩人の方で、年上の方を呼び捨てにしない」
「いいんですよ~~、なにしろ俺も賢人くんには助けられてますし~」
ルクスの投げ銭ネームまで知っているのだから、鬼哭丸を賢人からレンタルしていることは知られているだろう。
そう思って言ったが、誠二は不思議そうな顔をした。
「賢人がルクスさんの役に……?」
「あーー! あーー! なんでもないよ! 今日はマナ石のお金だろ?」
賢人が遮ったので、ようやくルクスは察した。
平常運転の鈍さだ。
賢人は、親には鬼哭丸を貸したことを黙っていたのだ。
「じゃあ私はルクスさんと話しているから……」
「あとで、おれがケーキ運ぶよ。ルクス、ユミエラの分もあるから持ってかえってよ」
「え、ほんと!? ありがとうーー!」
居間に入ると、賢人の足音が遠ざかっていく。
キッチンにいるらしき母親と、なにかしゃべっているのを聞きながらソファーに腰を下ろした。
「さて、査定の結果ですが……あのマナ石は580万で売れました! そのお金で、異世界言語のスキルオーブ、一個30万円が三つで90万。20万の転移石がありったけで24個、480万円。残金が10万です」
「580万が、10万……」
前回の誠二の話では、異世界言語のスキルオーブを40万から30万に値引きすると言っていた。
つまり、本来ならマナ石だけでは足らなかったことになる。
「転移石は、もし余ればまた弊社が高く買い戻しますからご安心を」
あと四つのアイテムを集めなければならないが、三人では四往復分だ。
足りる保証は、全然ない。
グランディアでも、探すしかないだろう。
「本当にありがとうございました!! 俺の力だとマナ石を売ることもできずに詰んでました!」
机に並べられたスキルオーブと、転移石。そして残金の十万円を見て、ルクスは深々と頭を下げる。
「名前を貸して、売却を助けてくれた深玲様にも、ほんっとうにありがとうございました、と伝えてください」
「はい、城石にも伝えておきますね……ですが、ルクスさん。また今後もマナ石を手に入れて困ったらまたいつでも頼ってください」
「はい! こちらこそ是非!! あのぅ、突然ですけどタッパーってお借りしてもいいですか……?」
「タッパー……? はい、もちろん」
雑なノック音がして、賢人がケーキと紅茶を運んできた。
ルクスは、慌ててテーブルの上のアイテムを収納する。
空いたところに、賢人がケーキとお茶を並べながらルクスの顔を伺っていた。
商談がうまくいったのか、賢人なりに気になっていたのだろう。
ルクスが笑顔を見せると、賢人も咄嗟に嬉しそうな顔をしてから慌ててそっぽを向く。
「うまくいったのかよ?」
「おかげ様でーー! 賢人くんと知り合いになってて良かったよー」
「……悪かったな」
誠二がタッパーを取りにいっているのを見送って、賢人が唐突に謝った。
「ダンジョンに入っちゃったことなら――」
「そうじゃなくて。ルクスの先輩たちにもさ、おれ、半妖がーーとかイキって」
「ああ、それ?」
賢人の顔が微かに赤い。
熱だろうかと、ルクスは検討違いな心配をした。
「シュラ・チャンネルにのめりこんでてさ、シュラが半妖が~っていうの、カッコイイとか思っちゃってて。実際は半妖に知り合いもいなかったのに……。でも、ルクスも怒らなかったし、助けてもらったのに、おれすっげーガキだったな、って反省して。悪いのはシュラ・チャンネルのせいだけじゃないけど! ちゃんと謝ってなかったな、って!」
「先輩たちには言っておくよ、色んな意味でもう忘れてるとは思うけど……。シュラ・チェンネルって、配信?」
「知らねえの? 采月ホールディングスの一人息子でさ、超つえーの。レアなスキル、めちゃくちゃ持っててさ。配信も、たまーに娯楽でやる程度で、更新も少ないんだけど学生には人気なわけ」
シュラ。その名は、グランディアで聞いたことがある。
日本からきた、自称勇者。
「その人って、まさかグランディア出入りしてる?」
「さあ……? グランディアって電波ないんだろ? ダンジョンに出回らないレアスキルのオーブもゲットしてるみたいだけど、よくわかんないな」
同一人物なのかどうか。
分かっていても、ルクスには直接的に害はないし、突き止めても特に意味はない。
深く考えないルクスは、そこで思考を放棄した。
「ルクスさん、タッパーですけど……」
誠二がタッパーを二つほど抱えて戻ってきた。
ルクスは受け取ると、反対側の手をアイテムボックスに突っ込む。
「あの、今回のお礼で……その、俺が倒したブラックバーニーの肉をおすそ分けに」
「ユミエラに食べさせるんだろ? いいのか?」
「大丈夫だよ、賢人くん。今回大量だから!」
ブラックバーニーの肉を三体ほど乗せると、タッパーは肉であふれた。
賢人は、しげしげと肉を見ている。
「おれも将来探索者になったら、こうやって解体すんのかな」
「おまえにはまだ早い! 父さんは、勝手に突発型ダンジョンに入ったことを怒ってるんだからな」
二人の会話を微笑ましく聞いていたルクスは、ふとスマホを見た。
ユミエラから、いくつもメッセージが入っている。
「その……妹が待っているので、そろそろ帰ります! 今回はほんとうにありがとうございました!!」
「こちらこそ! お肉までありがとうございます!」
「また来いよー、ルクス」
手を振って卯実家を出る。
そのルクスの手には、食べなかった分のケーキまでたくさん入ったケーキ箱がぶるさがっていた。
心のなかには、わずかに誠二と賢人のやり取りが残っていた。
たとえ病気を治すのに役に立たなくても、今、ユミエラの側に父オーデュインがいたら。
なんと声をかけるのか。
考えても仕方ないことを忘れるように、ルクスはユミエラに返信する。
今いるのは、ルクスだけだ。
必ず治して、オーデュインと再会させてみせる。
絶対に。
勇者シュラの正体が明らかになりました




