第23話 おいしいごはん
ルクスは、こんこんと眠るユミエラを見つめていた。
給料が出て、久しぶりに廃棄ではないヴァンパイアハーフのフードを買いそろえた。
ユミエラの頬は青白く、脈は弱い。
その姿は、亡き母親を思い出される。
つらくて封印した記憶が、ユミエラを見ていると蘇ってきた。
枯れ木のようになった母。
そして、自らの血を必死に吸わせる父。
子供だったルクスは、それを見ているしか出来なかった。
「さって、料理を作るか」
今のユミエラは、大鍋いっぱいに作っても一食で食べきってしまう。
じわじわと食べる量は増えていき、そしてどんどんやつれるのが加速していた。
ルクスは買ってきた野菜と、たっぷりのブラックバーニーの肉を圧力鍋で煮終えた。
カットした野菜の皮を捨てるという選択肢はない。
きんびらにして、これは自分が食べることにした。
ユミエラの体力と憔悴では、硬いものは噛めないかもしれない。
きんぴらをつまみつつ、ゴマの触感を楽しみながらルクスは卵を茹でだした。
これは、シチューに添える用だ。
「ユミエラ、起きられる? もうすぐごはんだよ」
「ん……? うん……」
グランディアにいっている間、ユーナの家に預けられていたユミエラは甘えん坊になっていた。
しかし、一人でこのアパートで留守番をさせていたら、ユミエラは寂しくなかったようにふるまうだろう。
兄としては、甘えてくれるユミエラのほうが嬉しい。
圧力鍋の圧力が下がったところで、ブラッドソースと牛乳を入れて味を調えた。
「いい匂いがする……」
「トマトシチューだよ、全部食べていいからね」
大きな器に盛りつけて、半熟にゆでた卵をスライスして乗せる。
半月型の卵の黄身は、とろとろと輝いていた。
「おいしそう……いただきます」
「はい、めしあがれ」
ルクスは廃棄のパンにきんぴらを挟んで、総菜パンにしながら食べはじめた。
バターの代わりに、マヨネーズを薄く塗っている。
ユミエラは、ベッドの上に置かれた小さなテーブルにトマトシチューを乗せて、そろそろと口にした。
「おいしい……!」
「良かったーー。給料日前はずっとコンビニ飯でごめんなあ。これからはなるべく作るようにするよ」
「でも、忙しいんだから……無理しないでね」
圧力で、とろけるほど柔らかくなったレッドバーニーの肉を食べるユミエラを見ながら、ルクスは考えていたことを口にしてみた。
「グランディアに行ったら、レベルもあがったしこの肉も取れたんだ。兄ちゃん、しばらく休みの日はグランディアでレベルあげながら、肉を確保しようかなって」
「このお肉、買ったんじゃないんだね?」
ユミエラは意外そうな顔をした。
食べている間は、かすかに顔に生気が戻る。
「そう! 入ってすぐの草原にけっこう出てくるモンスターがでさ! ブラックバーニーの肉のほうはもっと肉の甘味があるらしいから、それもユミエラに食べさせたいんだよなぁ」
「いいなぁ、元気になったら行ってみたいな……」
「連れてくよ! それまでに少しは俺も強くなるし!」
ルクスには、元々強くなりたいという願望はない。
できれば、人任せで終われればそれにこしたことはないのだ。
それでも、ダンジョンで荷物持ちしている限り、配当はネオ:4、ユーナ:4、ルクス:2だ。
S級ピースメーカーでレベル90の二人に追いつこうとは思わないが、この先にユミエラのためのアイテムがお金で片がつかないかもしれない。
ケニーもアリアも、好意でついてきてくれるだけだ。
本当なら、ルクスが全部ひとりでやらねばならないところを、助けてくれている。
そうでなくとも、ケニーにもアリアにもユミエラへの食費問題で助けてもらっているのだ。
「おいしいよ、お兄ちゃん。元気になりそうな気がする」
ユミエラの精いっぱいの強がりに、ルクスは笑顔でおかわりをよそう。
頑張ろう、ユミエラの兄として。
戦闘が苦手でも、ユミエラの為には必要なことだ。
出来ることを全てやる。
そして、ユミエラが誇れる兄として。
五つのアイテムを入手して、永飢病から完全に回復させる。
してみせる。
ルクスは、休日は一人でグランディアに行くことを決意した。




