第21話 レベルがあがっていた
「足らないわね、知恵が」
ユーナが、糸を振るった。
ゴブリンメイジの頭が、吹き飛んでいく。
久しぶりの、現代ダンジョンでのピースメーカーの仕事だ。
今日は、依頼人が所有する永続型ダンジョンの宝箱を開ける仕事に来ていた。
ダンジョンには、ミミックというモンスターがいる。
そのモンスターがダミーの宝箱などを作ったり、擬態したりするのできちんとした宝箱だけ回収するのが仕事だ。
「転移石買うのも、マナ石を売るのも半妖――あんたは完全なグランディアの血だけど――それには無理よ。しかも、あの『半妖のくせに~』って言ってたガキの親が、いう事聞くと思う?」
「う……でも、連絡先交換してからは、そんなこと言われてませんもん」
「ははは、ルクスは呑気だなあ」
ネオが、豪快にゴブリンキングの頭を割る。
ゴブリンは、倒しても素材になるところが少ないので殲滅対象だ。
ネオの大剣がうなり、ユーナの糸も光りながら斬撃を与えていく。
ルクスは二人がバラバラにしたゴブリンの死体を回収する、いつも通りの内容だ。
「でも、今日賢人くんにお父さんと連絡とってって言ったら、オッケー! って言ってましたもん!」
ルクスは頬を膨らませて、ゴブリンを回収する。
今日は永続型ダンジョンなので、時間を気にしなくていい。
単発型ダンジョンだと、すぐに倒して探索者ギルドに引き渡さねばならないのだ。
制限時間の六時間を超えると、単発型ダンジョンは消えてしまう。
「まあ、せいぜい気をつけることね。別にあたしだってユミエラのためには、うまくいってほしいんだから」
「はいっ!! ユーナ先輩様には、本当によくしていただいておりますっ!!」
「ルクスは、どこまでもユーナのゲボクだね!」
ルクスは、ユーナからのお茶を出せサインを読み取ってアイテムボックスからドリンクを出す。
ネオにも、プロテインと水分補給ドリンクを混ぜた謎の飲み物を渡した。
そんなルクスが飲むのは、ペットボトルに入れた水道水だ。
「ここまで来て、ダミー五個、本物二個。守秘義務とやらでダンジョンマップももらえないから、進むのが遅いわ」
「ははは、ごうつくばりの爺さんだからなあ。本物はあと一つだ、とにかく探すしかないな!」
「しょうがないですよ、個人資産に永続型ダンジョンって相当――うわぁぁぁぁ!!」
ゴブリンアーチャーの弓矢が、ルクスの腕に刺さる。
ゴブリンキングを倒して安心していたが、別の群れがやってきたのだ。
ルクスは、ダンジョンに入って半袖姿になっていたので服は破られなかったが、もし長袖だったらと殺意が沸く。
「もし長袖だったら、どうしてくれるんだぁぁぁ!!! Ifルート袖の恨み!!!」
立てかけていた鬼哭丸で軽く薙ぐと、ルクスはゴブリンアーチャーの背後から押し寄せてきたホブゴブリンたちを、一瞬で打ち倒した。
「ゲボク、あんた……どうしちゃったの?」
「そういえば、今朝見た時も、レベルが20になっていたね。グランディアで戦ってきたのかい?」
「ええええ!! レッドバーニーとかを少し倒しただけで、俺は基本的にずっと穴掘ってましたけど!? いつの間にかレベルがあがったのかあ」
「異世界で、どうして穴掘りするのよゲボク……」
ルクスはそもそも、ヴァンパイアとデーモンの血を持つ、高位の存在だ。
性格が戦い向きではないため、見落とされがちだが、体力や膂力そのもの、筋肉の質などは半妖を軽くしのぐ。
ユーナとネオは、更にそのデーモンがデーモンロードという悪魔の頂点にいることを知らない。
「グランディアの血を引くものは、グランディアの大地のほうが経験値が入りやすいんだ。知らないでいったのかい?」
「ええええ!! じゃあ、ケニー先輩もあがってるのかな??」
「ちなみに、アリアは本当に無事なんだろうね?? アリアは平気だと言っていたが、事と次第によっては……」
「めちゃくちゃ強かったですし、なんかあれば俺が体でかばいますから~~」
飲み物をしまって、三人はまたダンジョンを進む。
そこには、古びた宝箱があった。
「あったわよ、宝箱。ネオ、これ本物?」
「いや、偽物だね。どうやら爆発しそうだ」
「じゃあ、ゲボク。やってちょうだい!」
「偽物は、偽物として放置じゃダメなんですかね……いつも思うんですけど」
渋々とルクスが宝箱の前に座る。
ネオのドラゴン・アイでダミーだと分かっていて、開けるのはルクスの役目だ。
理由は簡単、再生するから。
「もし、シャツが破けたら絶対経費で買ってくださいね~?」
「わかってるわよ、何度も言わなくてもいいわよ」
「最悪は僕のお古でもあげるから」
「絶対ですよ!!! いきます!!!」
ドカーン! と派手に宝箱の残骸が飛び散る。
ルクスは顔の直撃を避けたものの、右肩に大きな穴があいた。
「ああああ!! やっぱり、穴があいたじゃないですかあ!!」
「……帰りにシャツ二枚買ってあげるわよ」
「え!? 二枚!! なら、いいです!」
ルクスの肩は、もう再生が終わっており、シャツは右だけオフショルダーのようになっている。
二つ買って貰えると分かったルクスは、意気揚々と立ち上がった。
痛みはあったが、人ごみで軽く肩がぶつかった程度にしか感じない。
「正解の宝箱を探すわよ!」
「はーい!!」
「宝箱の気配はこっちだね!」
ユーナもネオも言わなかったが、ルクスが戻ってきた大きさを痛感していた。
宝箱開けもそうだが、アイテムボックスが存在しないネオとアイテムボックスがあまり大きくないユーナとでは、ルクスがいない間は荷車を押していたのだ。
絶対に口には出さないが、ルクスの存在に感謝はしている。
本物の宝箱を見つけて中身を回収し、依頼主に回収した中身を渡したのは夕方になっていた。
「シャツ! シャツ! シャツが二枚!」
ルンルンと歩くルクスは、買って貰ったシャツを入れた袋を振り回す。
やっていることは子供だが、外見は立派な二十四歳だ。しかも上背は高い。
賢人とメッセージをやり取りしていると、電話がかかってきた。
通話は高額だ。
ルクスが出ると、柔らかい声の男性が電話に出る。
「どうも、初めまして。卯実賢人の父でございます。ルクスさんには、息子の命を救っていただいて……言葉にできないほどの感謝をしております。私でなにか役にたてることがおありだとか?」
ルクスは、電話をしながら思わず直立して頭を下げた。
「いえ、こちらこそ……! そもそもは仕事ですから、あの……!」
「よろしければ、うちにいらしてくださいませんか? 勿論、いつでも構いません」
「で、では、今日か明日とかって……その、いいですか?」
アポイントメントなどは、ルクスにはよくわからない。
思ったまま思わず口に出したが、電話の声は温かいままだった。
「ええ、本日でも構いませんよ。うちまでのマップをお送りしますので、是非いらっしゃってください」
ユーナは危惧していたが、賢人の父親の感じは悪くなかった。
ルクスは、ケニーのいるコンビニに向かうのをやめてスマホの画面を操作する。
場所は、以前、賢人が踏み込んだ単発型ダンジョンにほど近い。
うまくいけば、フォルン村で貰ったマナ石が売れるかもしれない。
駄目でも、売り方のやり方くらいは教えてもらえる可能性がある。
ルクスは、ユミエラに「遅くなる、ごめん」とメッセージを入れると走り出した。
どうあれ結果は、早く欲しい。
一月七日まで、そう日はないのだ。




