第二話 ルクスという存在
「うう、早く帰ってユミエラにごはんを届けないといけないのに~」
ルクスは愚痴をこぼす。
妹のユミエラは、最近起き上がるのも億劫そうだった。何かの病気らしいのだが、半妖向けの医者は少ない。しかも種族が違うとなると範囲外として断られることも多い。
最近連れて行った病院でも、ヴァンパイアハーフを診れる医者は急遽地方に出張していると言われたばかりだ。
今年十二になったユミエラは、ルクスとは一回り年齢が違う。二十四歳の兄としては、安心させてやりたい。
「痛ッ! なんだ……?」
ルクスは自分の左手に痛みを覚えた。
見ると、たちまち血管は紫色に膨れ上がり、腕の肉が奇怪に変形していく。
それはあっという間に左腕全体に広がり、たちまち腐ったようなにおいをたてる。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! ジャイアントポイズンスパイダーだぁぁ!!」
叫びながら、ルクスは自分の腕を切り落とした。
肩の付け根までが、どっとダンジョンの草の上に落ちる。
ルクスの腕は大きな出血がなく、少し経つと無くなった腕はゆっくり再生が始まった。
ヴァンパイアハーフであるルクスは、ダンピールではない。もう半分は悪魔である父の血だ。
異種族と地球人とのハーフではない。
ある意味では、純血のグランディアの民である。
「あーあ、ユーナ先輩がいればもっと綺麗な断面にスライスしてくれるのになぁ~」
人に聞かれればぎょっとするような言葉を吐いて、ルクスは前に進む。
切り落とした自分の腕は、放置だ。
現代のエネルギー体であるマナ石も、こんな序盤にはほとんど見かけない。
遅まきながら、ルクスは鑑定・Cを発動させた。
本来のルクスには、鑑定系のスキルはない。元々生来から所持しているスキルにはアルファベットは表記されないのだ。
ルクスがもっている鑑定・Cは、所属するピースメーカー事務所に経費で買って貰ったものだ。
「ん? ポイズンビッグフロッグもいる……ネオ先輩のドラゴンブレスで一撃なのにー!」
いない人間を当てにしても仕方ないのだが、ルクスのメンタルは弱い。
既に異常は出ている。普段のダンジョンでは、こんなに毒系の魔物は出ない。
それでもルクスは、そうした事実には気が付かないまま進むのだった。
「はっ!!」
ポイズンビッグフロッグの長い舌を、ルクスは切断する。
短刀を閃かせ、続いて黄色の反転のある手足をスライスした。
ルクスは吐かれた毒腺を回避しそこねて、再生した左腕でそれを受ける。
「くっそおおおお! もう左袖が死んでるとはいえ、ちくしょーー!」
どうせ再生する、という理由でルクスには防具らしい防具はない。
Fランクピースメーカーであるルクスは、一番下のランクだ。
普段は最高ランクのSランクである先輩二人に、攻撃は任せきりなのである。
「あーー仕事中なら経費で落として貰えるのに!!!」
服が死んだことを嘆きながら、ルクスはポイズンビッグフロッグに止めをさす。
この辺は、Eランクダンジョンでも出てくることはあるのでルクスも、迷いはない。
また毒を受けた腕を、こともなげに切り落として再生を待つ。
息の止まった魔物は、ルクスのアイテムボックスに放りこんだ。
ルクスが『荷物持ち』と言われるゆえんの、巨大な内容量を誇るアイテムボックスである。
人間も、素質によってはアイテムボックスを持っていることもあるし、異種族も種族によってはもっている。
それでも、大きくて二トントラックで積める量程度が限界だ。
ところがルクスは二トントラックそのものを数十台、しまってもケロッとしている。まだ何かしまいましょうか? と言うので、それで事務所の面接に受かったクチだ。
レベルは15。目立つ攻撃魔法などもないし、短刀術も剣が買えないからなんとなくで使っている。
「うげっ! 今度はポイズングレーウルフ……! なんだよ、さっきからポイズンポイズン!!」
ルクスがとびかかってきたポイズングレーウルフの牙を、短剣で防ぐ。
その剣先が、ボキリと音を立てて折れた。
絶叫系の主人公なので、一人ごと全開です。
騒がしいですが、あたたかく見守っていただけると嬉しいです。




