第19話 作戦名は、おあげさん
フォルン村に辿りつく道々、あちこちに土が掘り起こされていた。
村人たちが、またブルドーザーに変化して土を掘ってくれたのだろう。
「これは、毒霧の泉を埋めるために掘られた土なんですか?」
「そうそう、ホムラマルを捕まえたら全部の毒霧の泉を埋め立てるからね~」
「そういえば、どうして毒が効かないようになったの?」
ルクスがケニーたちに、巻き込まれた単発型ダンジョンの話をしている間に一行はフォルン村に着いた。
城壁からカゲロウの声がして、毒霧が封印された東門からオボロが出迎えてくれる。
「おお、ルクス様にケニー先輩様、そしてこちらの美しい方は……?」
「アリアといいますです」
美しいと言われて、先ほどまで釘バットを振り回していた十八歳はにっこりした。
釘バットさえ持っていなければ、確かにアリアは美人だ。
「ホムラマルという盗賊を捕まえるのをお手伝いします」
「おお、ありがたいことですじゃ!」
村人たちからも、感謝の眼差しが送られてくる。
門と薬草畑の毒霧をどうにかしただけだが、相当に喜ばれていた。
「じゃあ、俺は山におあげを撒きに……」
「芝刈りみたいに言うね」
「私はどうすればいいですか? ルクスさん」
「ケニー先輩とアリアちゃんは、カカル山に近い門に待機してもらって、落とし穴の前で待ち伏せ役で!」
「……つくづく不安な作戦だなぁ」
ケニーはともかく、アリアはダメなら力づくでいこうと決めている。
好きと信頼は別勘定のアリアだ。
二つの門に落とし穴を掘って、そこにベニヤ板の上に土を広げたが明らかに落とし穴はみえみえだった。
まあ、使うことはないだろう。
作戦を信じるただ一人のルクスは、おあげを持ってカカル山に向かった。
山は、植物が少なく足元は鉄のような感触がする。
「うわー、思ったより俺がまるみえじゃないか……? グリム童話式に、向かいながらおあげを置いていくかー」
ただでさえ、無駄に身長だけはあるルクスだ。
大きな岩などに隠れながら歩いてみるが、いまいち不安になる。
一応、油揚げは袋の口を開けておいてあるが、きつね獣人の嗅覚がどれほどなのか分からない。
「これで、六個設置……。え、もっと間隔おいたほうがいいかな? 思ったより早くなくなるな」
常日頃の倹約魂のせいで、油揚げは十個しか買っていない。
ルクスとしては、それでもかなり奮発したほうなのだが。
残り四つに心細くなっていると、ルクスは前方不注意で小さな灌木の中に転がった。
「いっ……!!」
声をあげて文句を言おうとした瞬間、山から下りてくる足音が聞こえて口を閉じる。
ガサガサと土を踏みしめる音がして、ルクスは音を殺しながら音のほうを覗いた。
狐耳に、しっぽの若い男が、ルクスが置いたあぶらあげを持ち上げてクンクンと嗅いでいる。
よく考えたら、ルクスでも道端に落ちているものは基本的に食べない。
作戦、失敗したかな……と思ったルクスの目の前で、きつね獣人は油揚げに食いついた。
(た、食べた~~~~!!)
カカル山に今いるきつね獣人はホムラマルだけだと聞いているので、間違いはないだろう。
ホムラマルは、鼻をひくつかせながらルクスが辿ってきた道を降りていく。
(よっしゃー!! かかった! あとは落とし穴だけ……!)
ルクスしか信じていない落とし穴に向かって、ホムラマルは進んでいった。
ルクスも、距離を取りながらそれを追う。
ホムラマルは、狐狸族用の油揚げに味を占めたのか無警戒に突き進んでいった。
ルクスも、作戦で買ったものが無駄にならずにほっとしている。
どんどん加速していくホムラマルは、ケニーの控える門へと寄っていく。
落とし穴の向こうには、やはり油揚げが置いてあるのだ。
山賊刀を振り回しながら、ホムラマルは突進していく。
そして後を追いかけるルクスの目の前で、落とし穴に見事落下した。
「落ちた~~~~~~~~!!!!」
アリアも駆け付けて、這い上がろうとするホムラマルに武器をつきつける。
こうして、ルクスとしては計算通り。ケニーたちにはびっくり仰天の捕獲劇は幕を閉じたのだった。
盗賊、ホムラマルは縄でぎゅうぎゅうに縛られた。
これほど間抜けな逮捕は、そうそう例がないだろう。




