15話 異世界グランディアの歩き方②
ルクスとケニーは、歩きながらオボロたちたぬき獣人の事情を聞いた。
ほろ馬車が壊れたのは、狐獣人のホムラマルという盗賊に襲われたこと。
数年前に勇者・シュラが毒霧の泉をあちこちに作って困らされていることなどを聞いた。
ケニーは、先ほどのルクスの変身のような姿を聞きたかったが、今はオボロたちの話を優先している。
「勇者って……勇者ですかぁ? 人を救ったり、敵を倒したりするアノ?」
「自称勇者だよ! あいつら物盗んだり壊したり、全然いいやつじゃないんだ!」
カゲロウが、吐き捨てるように言う。
「じゃあ、それこそ盗賊みたいなものですか?」
「どちらかというと、強盗ですじゃ」
オボロの眉もしっぽも垂れ下がった。
獣人たちの喜怒哀楽は、分かりやすい。
「その、シュラという勇者の種族はなんですか?」
「人間ですじゃ。地球からきた人間ですじゃ」
「え…………」
ルクスもケニーも、一瞬立ち止まってしまった。
さぞ、魔力にあぶれた強力な種族だと思っていたら、まさかの人間だった。
地球では、人間は先にいた種族として立場が上だ。
それは分かっているが、グランディアまで人間にいいようにされているとは。
「シュラという人間の勇者か……まだうろうろしているのかなぁ」
「ここ最近は、どこかのダンジョンにこもりっきりで稼いでいるという噂は聞いてますじゃ」
ルクスとケニーは顔を見合わせた。
最悪、目をつけられるかもしれないと思ったが、それなら遭遇することもなさそうだ。
「あちこちの種族と村が、勇者シュラによってひどい目にあわされたのですじゃ。そこを、オーデュイン・フォン・レインフォール様が、生活の糧になるように色んなものを植えたりしてくださったんですじゃ」
「デーモンなんて、最強の魔族なのにな! 良い方だったよなぁ」
「カゲロウくんは、会ったことがあるの?」
「ああ! イケメンで背が高くて……ルクスより大きかったなあ」
名乗らないの? とケニーがアイコンタクトをおくってくるが、我が家ではわりとだめだめ派のオヤジが英雄視されているところに、息子とは名乗りづらい。
ルクスはフォルン村を救えないし、むしろユミエラを助けてほしくてきたのだ。
「見えたよ! フォルン村だ!!」
カゲロウが駆け出す。
村という割には石の城壁ががっしりしていた。
その城壁には、複数の人影がある。
「カゲロウかーー?」
「そうだよーー!」
「東門はダメだ、南門に回ってくれーー」
駄目とはどういう意味だろうか。
手前の門には薄い霧が差していた。
これだけ晴れているのに、何故なのか。
ルクスがよくよく見ると、霧は地中から上に立ち込めている。
「これは――」
「これが、勇者が残していった毒霧の湖ですじゃ。毒消しを飲んだ村人が、掘り返しては新しい土をかぶせるのじゃが、土を腐らせてこうして出てきてしまうのですじゃ……」
「大変ですね」
ケニーがオボロをいたわる。
もやしだけ食べている後輩にしょっちゅう奢れる男だけあって、心が優しい。
「だから、遠出して毒消しをたくさん買ってきたんだ、俺たち……。村の薬草畑も毒霧でダメになっちまったし」
南門に向かって歩きながら、カゲロウが歯噛みする。
勇者という名のろくでなしが残した、負の遺産は強すぎた。
「ケニー先輩、毒消し持ってましたっけ?」
「何個かはあるけど、滅多に使わないからね……。ルクスくんは……ああ、そもそも貰えてないのか」
そこでルクスは、ようやく最近ゲットしたスキルオーブの力を思い出す。
「ああ!! そうか、俺は毒が効かないんだった!! 俺で良かったらやりますよ?」
「毒が効かない!? それは凄いですじゃ……しかし、助けてもらったうえにこの上、毒霧のことまで頼めんですじゃ」
オボロに断られたが、ルクスは機会を見て掘り返そうと決めた。
ルクスのアイテムボックスなら、毒を含んだ場所ごと放り込んで新しい土を運ぶくらい簡単なことだ。
南門に踏み込むと、ルクスたちはたぬきの獣人たちに囲まれてしまった。
ほろ馬車はどうしたと騒ぐ声に、オボロが対応している間、好奇心の目がルクスとケニーを襲う。
「ホムラマルめ、またやりやがったか!」
「どうする、毒消しなしで……もう北門も使えねえし」
「ひとまず恩人の方たちをご案内して……」
パン、とケニーが手を打った。
たぬき獣人たちの耳が、ぴくぴくと動く。
「はい、お礼はいいですから水だけいただいたら、ルミリの実がなる場所まで案内してください。僕たちのことにはそう構わないでください」
金髪碧眼のハーフエルフの声に、集団のどよどよは収まった。
「それじゃあ、カゲロウだけつけさせてください。村の案内なら、カゲロウでも用が足りますから」
「そうですか? じゃあ、お願いします」
てきぱきと動いてくれるケニーがいて助かった。
ルクスは、ゲボクと蹴倒されることには慣れているがチヤホヤは初めてだ。
おろおろしていただけで、特に役に立っていない。
「じゃあ、こっちに案内するよ。ルクスとケニー先輩が落ち着けると思うからさ」
ケニーの名前がケニー先輩で一つになっているような気がするが、大人しくカゲロウについていくことにした。
村の中は、どこかよどんだ空気をまとっている。
ルクスには、それが寂しげに見えた。
グランディアは、他にもこうした場所があるのだろうか。




