第一話 異世界グランディアと地球とダンジョンと
ルクスはコンビニからトボトボと歩いていた。
今月の家賃を払って――銀行残高は千円だけ。
十二月中旬の空気が、心身に冷え込んでいる。
「うわぁぁマジでやばい、これはヤバい! くっそー親父のやつこんな時に留守にしてるとは!」
今月は、やたら食費がかかった。
ルクスの家は、ヴァンパイアハーフである妹のユミエラしかいない。
ヴァンパイアハーフであるルクスは、血以外でも食事が済む。だが、同じヴァンパイアハーフでも母の血が濃い妹には血が入っているものを買ってこないといけない。
20XX年、世界は異世界『グランディア』と接続された。
連鎖反応のひとつとして、地球にもダンジョンが出来上がり、異能スキル持ちが生まれた。
グランディアと接続された場所はゲートと呼ばれ、各国が何か所かゲートを所有することになった。
ルクスの母であるヴァンパイアもまた、ゲートを通ってきた異種族である。
「こうなったらケニー先輩しか頼れん……!」
ルクスの先輩の中で唯一のまとも常識枠――雨宮ケニーは蛇の目商会が展開する半妖向けをメインとしたチェーンコンビニで働いている。
帰宅するつもりだったルクスは、来た道を戻り始めた。
グランディアに移住する者もいたが、東京の地価は高いまま。
むしろダンジョンが生まれて三十年、土地は高騰を続けている。
極貧のルクスの仕事は、ピースメーカーというダンジョンの何でも屋だ。
事故・迷子・遭難と、仕事の内容は事欠かない。ある時は人気ダンジョンのごみ拾いまでしたことがある。
ルクスは街灯を見上げた。
現代はもはやガスも電気もない。ダンジョンからとれるマナ石が、クリーンなエネルギーとして世界を動かしていた。
「こんばんは」
無邪気な声がして、小さな女の子を連れた女性が頭を軽く下げる。
耳の形からして、グランディアの民のハーフだろう。
黒髪だが、赤い目をしたルクスも見るからに半妖だ。半妖同士だからこそ、気軽に挨拶が出来る。
「こんばん――」
はっと息を飲んだ。
ルクスと親子の目の前でオレンジの雷が、三度光った。
それは、ダンジョンの発生の告知。
誰もが知る、危険のシグナルだ。
「避けて――!」
ルクスは、めいいっぱい親子を突き飛ばす。
ルクスの足元の地面が、一気に消えた。
「ああああああああ!!!オレって弱いんだったぁぁぁぁぁ」
絶叫するルクスの声が、生まれたてのダンジョンの底に吸い込まれていく。
取り残された親子は、悲鳴を上げながら逃げ出していた。
ダンジョン発生局に、震える手で通報しながら――。
「――いでっ!ここ地面か?」
ルクスの体が草の上に跳ねた。
転倒しながら立ち上がると、足元は柔らかく草が生い茂っている。
洞窟のようなダンジョンに始まり、川があるダンジョンや火山帯のダンジョンなど、地形は様々だ。
このダンジョンは永続的なダンジョンではない。単発型である。
発生の雷の色がオレンジだからだ。
「単発型かぁ……慣れてるけど」
単発型は、中のダンジョンボスを倒せばダンジョンが消える。
永続型ダンジョンは、ダンジョンボスを倒しても時間で回復するので人気が高い。
ピースメーカーに回ってくる仕事の大半は、単発型の複雑なダンジョン仕事だ。
ダンジョンの攻略をする探索者と違い、ピースメーカーは戦いがメインではない。
それでも、当然力のないものにダンジョンで事故を片付けることは出来ない。ただし、ルクスの仕事は正式に言うならばピースメーカーの「荷物持ち」だ。
同じチームを組んでいる先輩たちには、下僕認定されている。
「問題は、千里眼持ちのネオ先輩と、絶ち糸の魔女と呼ばれるユーナ先輩がいないっていう現実と絶望がオレを待っている……!」
ルクスのひとり言はいつものことだ。
アイテムボックスから、愛用の短剣を装備する。ただし、かなり使い込まれてガタがきているが。
万年金欠のルクスには、新調する金などない。
ダンジョンの壁に擬態したジャイアントポイズンスパイダーが、そんなルクスに向かって毒針をそろそろと伸ばしていた。
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気弱で使えない主人公が、じょじょに強くなるお話です!
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