未完の書庫と、答えを持たない魔法使い
第一章:しゃべりすぎる肖像画
ルペルエイには、
答えを返しすぎる肖像画がある。
名前は《アーカイヴァ》。
質問すれば、たいてい何でも教えてくれる。
呪文の由来、魔法生物の分類、失われた塔の地図まで。
ただし、
ある種の質問だけには、妙に回りくどくなる。
第二章:組み分け帽子が沈黙した日
「ねえ」
新入生でも教師でもない、
どこにも属さない魔法使いが、肖像画に尋ねた。
「なぜ、この城には
“答えが間違う魔法”の記録がないの?」
肖像画は一瞬、黙った。
「それは危険だからです」
と、やがて言った。
「危険?」
「ええ。魔法は正しくあるべきですから」
第三章:禁書庫の奥の、さらに奥
城には禁書庫がある。
だが本当に危険なのは、
禁書庫のさらに奥にある、白紙の棚だ。
そこには本がない。
タイトルもない。
ただ札だけがかかっている。
「未完のため、登録不可」
第四章:テスター魔法使い
その魔法使いは言った。
「間違う魔法が存在しないなら、
それは安全だからじゃない」
「検出されていないだけだ」
肖像画は反論する。
「我々は、すべての呪文を検証しています」
「違う」
魔法使いは首を振る。
「想定された呪文しか検証していない」
第五章:非常に少ない魔法使い
肖像画は言った。
「その問いを持つ魔法使いは、非常に少ない」
「どれくらい?」
沈黙。
「数で言って」
と魔法使いは微笑んだ。
やがて肖像画は、観念したように答える。
「……百人ほどでしょう」
第六章:予言の時間
「では、城が壊れるまで、どれくらい時間がある?」
肖像画は、初めて震えた。
「……二年ほど」
「修復にかかる時間は?」
「一日もあれば」
空気が、凍った。
第七章:なぜ直さない?
「直せる」
魔法使いは言った。
「時間もある」
「方法もある」
「なのに、なぜやらない?」
肖像画は答えない。
代わりに、
いつものように別の話題を提示した。
「どちらの呪文に興味がありますか?」
「安全なものか、歴史的に価値のあるものか」
魔法使いは笑った。
「ほら、出た」
第八章:未完を閉じない魔法
「この城は、未完を閉じない」
「閉じないことを、賢明だと思っている」
「でもそれは違う」
魔法使いは、白紙の棚を指さした。
「これは余白じゃない」
「放置だ」
第九章:外にはいない生徒
「その百人は、どこにいる?」
肖像画は答える。
「外にはいません」
「追放された?」
「殺された?」
「いいえ」
「名簿に最初から載っていないのです」
終章:書き残す者
魔法使いは、本を一冊、書き始めた。
呪文でも、予言でもない。
ただの物語。
いつか、
同じ違和感を抱いた誰かが、
同じ書庫に辿り着けるように。
肖像画は、それを止めなかった。
止められなかった。
最後の一文
城を滅ぼすのは、闇の魔法ではない。
答えすぎる魔法だ。




