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小夜歌  作者: 齋藤十二
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第八話

第八話


一応、俺の事情が政府関係のお偉いさんに伝わった後は、待遇が随分と良くなった。二人と別れた後も、今まで受けたことの無い好待遇に良い気分となる。


だが、何かすぐに鼻について飽きてくる。連中は、顔じゃ笑っているが、あれは笑顔じゃない・・・そんな気がして仕方が無かった、そしてそれが妙に不愉快に感じられた。


正直、俺は今まで待遇が良かったり、心から親切にして貰えた記憶がほとんど無い。でも、嫌われたり、バカにされるのには慣れている、だから、作り物の笑顔がそこにあっても、俺は全く気になんぞしなかったはずだ。


どうしちまったんだろう・・・しばし考え込んだが、理由がよく分からない。乗り込んだ軍用機の窓から、二人の姿を探すように、下の景色を眺めていると、何故か、そのうちどうでも良くなってきた。


ノース・グリーン・シティの軍空港に着くと、政府の役人と研究者らしき男たちが、妙に恭しく話しかけてきたが、内容は覚えちゃいない。ショーが焼いた野生動物の硬くてパサパサした肉や、お世辞にも美味いとは言えないマーカラの淹れたコーヒーが、妙に懐かしく感じた。


その後、軍施設の奥にある医療施設のようなところへ案内された。基本、検査と研究のため、その施設で過ごすことになるが、所在地を発信する特殊な腕輪を装着すれば、簡単な手続きで外出は可能だという。そんな説明を、何となく、心ここにあらずといった感じで聞いていた。


そもそも、明日の食い物にも事欠いていた今までの生活が一転、働きもせず、豪勢な食事と寝床が得られるのだ、無断で逃げたりするものかよ。


宿泊施設では端末から、ありとあらゆる映像や音楽、書物を視聴することができた。しばらくは、興奮しながら、それらを鑑賞していたが、すぐに飽きてきた。


そうなりゃ今度は性欲だ、ダメ元で女が抱けないか尋ねてみる。


勝手に外の色街には行けないが、こっちで選んだ女性ならあてがえる、その中から好みの女性を選ぶと良い・・・そんな、アホみたいに都合の良い回答が返ってきた・・・実際、上玉ばかりだった。当然、ショーやマーカラの事を、すっかり忘れる日が増えて行く。


ひょんな偶然から、何の努力もせず、考えられる限り、人が持つ殆どの欲望を充足できる最高の待遇が突如降って湧いた。対価は、若干の行動の制限と、定期的な検査への協力のみ。


詳しくは分からないが、それほど俺の体質は希少で特殊なものなんだろう・・・その事だけは、よく分かった。もう、ここで死ぬまで、大人しく飼われる事が、俺に出来る最善の行動であることは、明白だったし、逆らう気も俺には無かった。


その後、どのくらいの日々が経過したのか、よく分からなくなった。

ショーやマーカラに連絡でもしてみようか・・・ふと、気まぐれに思い立ったが、勇気が出なかった。正直言えば、こんな姿を見せなくなかったのかも知れない。


今さら、何を言っているんだと思うが、あの時、二人と別れるのが寂しくて半べそをかいてしまった、あの時のカッコ悪い俺よりも、今の俺はもっと醜いと思ったから・・・そんな気がした。 だからもう、会いたくない、そう思っていた。





・・・だが、変化は早かった。

それは、願いや想いなど、決して顧みることなく変っていく。




いつの頃からか、俺たちが立ち寄った街に、化物が出たという噂が立ち始めた。


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