第二十一話
第二十一話
「ネクスト・イヴの所在は掴めそうか?」
首都にある元首執務室に、政府の高官や学者、軍人が集っている。
指導者らしき初老の人物が尋ねる。
「完全特定となると、あと数日ほど、かかるかも知れません」
「囮を影で手引きした者が、予想以上に優秀だったようで・・・」
「巧みに逃走経路の痕跡を消しているとの事」
軍人の一人が答える。
「しかし、ショー博士がこれほど性急な行動をするとは」
「若干、想定外でしたな」
「・・・いや、彼の思想は元々我々と相容れぬものだったよ」
「とはいえ、彼の頭脳なくして、計画の遂行は困難だ」
「一刻も早い身柄の確保を・・・」
さまざまな意見が上がるが、再び指導者と思しき男が口を開く。
「落ち着け・・・ネクスト・イヴは不死なのだ」
「その存在が明らかになっただけで十分な成果だ」
「性急かつ強引な身柄の確保は不要」
「彼女の怒りを不用意に買うべきではない」
「今、不用意な争いは、避けねばならない」
「むしろ、交渉を優位に進める材料を手の内に収めておくべきだろう」
「・・・それより、過激派の動きはどうなっている?」
***
その頃ショーは、アジトの研究室で頭を抱え込んでいた。
マーカラの吸血量とタイミング、そして特定の遺伝子パターンを有する対象者の場合、ある程度自我を保ったままの不死化は、理論上可能であることが分かっている。
ただ、それだとマーカラを頂点とした、自我の希薄なヴァンパイアの眷属の集団が生まれるだけだ。彼女の望んだ対等の仲間とは決して言えないし、万一悪化する地球環境下で生き残らせる「新人類」としては、問題が多すぎる。
ショーがこの点で悩んでいるのは、先に、その問題を解決しなければ、マーカラを通常の人間に戻す技術の確立は不可能だと分かったからだ。
実に皮肉なことだ・・・あれから、俺の身体を隅から隅まで調べた事で、それがようやく分かったのだから。
***
さらに急速に悪化する気象変動や悪質な疫病の増加によって、人類に残された時間がもはや僅かであることを、皆が気付き始める。
それゆえ、人々はマーカラの不老不死が如き、奇蹟を強く望み始めた。
恐怖と不安に耐えきれぬ「心弱き者」は、性急に自己の保身を求め、未完成の技術を、武力を用いて強引に使おうと目論んだ。
狂信的な暴徒の瞬間的な暴力に対し、調和を守ろうとする静かな叡智の力は、皮肉にも、あまりにも弱い瞬間がある・・・凄惨な争いは、その隙を衝いてくるものだ。
混乱の幕開けが近づいて来ている。