第十九話
第十九話
「・・・後の説明は、俺がしよう」
花束を抱えて固まったままのマーカラの代わりに、ショーが説明する。
様々な分野の研究者の討論の結果、地球の環境変動や、種としての衰退による変化を、今の人類では乗り越えられないという結論が出た。唯一の可能性は、人類を強制的に進化させるという方法だった。
ふとした偶然の事故で、マーカラが、ひっそりと自殺のために研究し続けていた技術の一部が漏れ、それを辿って不老不死の吸血鬼の存在が知られたのだ。
マーカラと同じ力があれば、地球の環境変化に耐え、人類は種と文明を残すことが出来る。夢とされた不老不死が可能となるのだ。そして、その偉大な力を基に、地球の環境を人類の生存に適したものへと戻し、人類が種としての生命力を取り戻すために必要な時を稼ぐことが出来ると。
それとは別に、人類は驕ることなく種としての寿命を受け容れ、残りの時を必死に生きるべきだという意見も生まれた。その二つの思想は対立し、今まさに争いへと発展しつつある・・・と。
だいたいは、俺が想像していた通りの流れだった。
何の学もない俺が、それを容易に想像、受け入れる事ができたのは、俺の中にある「何か」が見せた悪夢故だ。理屈を超えた何かの因縁があるのかもしれない。
だが、それがどうした?
俺はマーカラが幸せになればそれでいい。
「なぁ、ショー・・・お前はどうしたいんだ?」
俺は、ショーに尋ねた。一番大事な事だからだ。
「俺は元々、人類の進化を望む連中を、敵に回してまで邪魔する気は無かった」
「だからと言って、マーカラを籠の鳥にするつもりは、毛頭ない」
「・・・俺の研究は、マーカラを人に戻すためのものだからな」
ショーなら言い出しそうな事を、思ったとおり言いやがる。
「・・・へっ 奇遇だな、俺も同じことを考えていた」
俺はそう言うと、大声でマーカラに問うた。
「マーカラ! お前はどうなんだ??」
「お前は、平凡な人間に戻りたいんだな?」
「戻って、俺たちと、ずっとのんびり過ごそうぜ!」
「・・・な? 悪かねぇだろ??」
さすがに俺は少し恥ずかしくなって、声のトーンが下がる。
するとマーカラは、顔を見せたくないのか、静かに俯いた。
そして、微かに肩を震わせながら、コクリと頷く。
・・・なら、決まりだ
不思議と力が湧いてくる気がした。
もっとも、冷静に考えてみりゃ、何の力も学も無い俺が、張り切って仕切るところじゃなかったのだが。