第十四話(改)
第十四話
俺は、今まで何も知らなかった。
ただ呆然とするだけの俺を見て、捜査関係者も、俺が無関係であることを感じ取ったようだ・・・友人に置いていかれた哀れな奴、そういう目で俺を見ているのだろう。
そう、裏切られた・・・俺は思い知った。
ショーへの怒りが湧いてくる。
そしてマーカラの事は、思い出したくなかった。
いや、裏切られたんじゃないだろう・・・ハナから俺は、相手にすら、されちゃいなかっただけだ。
そう思い至ると、ハタと我に返る。身体の力がふっと抜けた。
そうだ、今まで通りに戻っただけで、別に驚くことじゃない。気を許せる仲間のような存在が俺にも出来たと思ったが、それがただの勘違いだった・・・それだけの事だ。
気持ちの落としどころは、すんなりついた。だからもう、二人の事を考えないようにすればいい・・・それだけの事だ。今までだってそうやって生きて来た。
何日か後、捜査への協力依頼を受けた。
どうやら、マーカラが過ごしていた複数の場所の一つから、俺宛の手紙が見つかったらしい、その部屋は、俺の知らない部屋だった。どうでもよかった・・だから、言われるままに現場へと行き、手紙の内容に目を通す。
「アンノー、心配するな」
「ただ、この花は持っていけないから、お前が預かっていてくれ」
それだけが書かれている。マーカラの字である事は確認せずとも分かる。
・・・花?
最初、その意味が分からなかった。
ふと見ると、可愛らしい花瓶に、バラのドライフラワーが飾られている。
その横に、置き手紙の態で、それがあったのだという。
これは、俺がふざけてマーカラに初めて贈った花だ・・・ドライフラワーにして、捨てずに持っていたのか。
「・・・なんでだよ」
俺は混乱した。
せっかく割り切って整理した気持ちが、再びざわつく。
「アンノーさん、失礼ながら、その手紙」
「どういう意図が込められているのか、お判りでしょうか?」
「もし、何か心当たりや、意図するメッセージのようなあるのなら・・・」
俺の表情に困惑と感情的動揺を見たのだろう。
目つきの鋭い捜査員の一人が、俺に尋ねる。
「・・・その花は」
「ショー博士がマーカラさんに贈ったものです」
「俺もその場にいましたから」
「それを預かれということ・・・らしいですね」
「正直、その言葉以上の意味が、俺には全く分かりません」
「彼女の物言いは、普段から、こういう感じが多いんです」
「・・・だから、それ以上の事は」
正直に言えば、花を贈ったのは俺だ。
だが、そんな事をコイツらに話したくはない。
それに、意味が分からないのは事実なのだから。
「・・・そうですか、もし何か思い出したら教えてください」
「どんな些細な事でも構いませんので」
俺を見る男の目の奥が鈍く光った気がした、俺を疑っているのか?
・・・疑ったって、俺は本当に何も知らねぇ。
何一つ知らされていないんだからな。
手紙もドライフラワーも、鑑識のようなところで調査した後、少しして俺の手元に来た。失踪したとはいえ、ショーもマーカラも犯罪を犯した訳ではない。
物品は、検査して、問題が無ければ当事者に戻ってくる・・・それだけの事だ。
無感動に俺はそれを受け取った。
捨てる気にはならなかった。
ボーっと、花と手紙を眺める日々が虚しく過ぎる。
マーカラは、何を思ってあんな手紙を置いていったのだ?
あの少しズレた天然の文章は、紛れもない「いつもの」マーカラの言葉だ。そこに悪意などあろうはずもない。
「・・・心配するな、か」
「俺は、あいつらに捨てられた訳でもないのかもな」
ふと、二人を探してみたくなった。
俺の前から、黙って姿を消した、その理由が知りたくなったのだ。