表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小夜歌  作者: 齋藤十二
14/21

第十四話(改)

第十四話


俺は、今まで何も知らなかった。

ただ呆然とするだけの俺を見て、捜査関係者も、俺が無関係であることを感じ取ったようだ・・・友人に置いていかれた哀れな奴、そういう目で俺を見ているのだろう。


そう、裏切られた・・・俺は思い知った。

ショーへの怒りが湧いてくる。

そしてマーカラの事は、思い出したくなかった。


いや、裏切られたんじゃないだろう・・・ハナから俺は、相手にすら、されちゃいなかっただけだ。


そう思い至ると、ハタと我に返る。身体の力がふっと抜けた。

そうだ、今まで通りに戻っただけで、別に驚くことじゃない。気を許せる仲間のような存在が俺にも出来たと思ったが、それがただの勘違いだった・・・それだけの事だ。


気持ちの落としどころは、すんなりついた。だからもう、二人の事を考えないようにすればいい・・・それだけの事だ。今までだってそうやって生きて来た。



何日か後、捜査への協力依頼を受けた。

どうやら、マーカラが過ごしていた複数の場所の一つから、俺宛の手紙が見つかったらしい、その部屋は、俺の知らない部屋だった。どうでもよかった・・だから、言われるままに現場へと行き、手紙の内容に目を通す。


「アンノー、心配するな」

「ただ、この花は持っていけないから、お前が預かっていてくれ」


それだけが書かれている。マーカラの字である事は確認せずとも分かる。


・・・花?

最初、その意味が分からなかった。

ふと見ると、可愛らしい花瓶に、バラのドライフラワーが飾られている。

その横に、置き手紙の態で、それがあったのだという。


これは、俺がふざけてマーカラに初めて贈った花だ・・・ドライフラワーにして、捨てずに持っていたのか。


「・・・なんでだよ」


俺は混乱した。

せっかく割り切って整理した気持ちが、再びざわつく。



「アンノーさん、失礼ながら、その手紙」

「どういう意図が込められているのか、お判りでしょうか?」

「もし、何か心当たりや、意図するメッセージのようなあるのなら・・・」


俺の表情に困惑と感情的動揺を見たのだろう。

目つきの鋭い捜査員の一人が、俺に尋ねる。


「・・・その花は」

「ショー()()がマーカラ()()に贈ったものです」

「俺もその場にいましたから」

「それを預かれということ・・・らしいですね」

「正直、その言葉以上の意味が、俺には全く分かりません」

「彼女の物言いは、普段から、こういう感じが多いんです」

「・・・だから、それ以上の事は」


正直に言えば、花を贈ったのは俺だ。

だが、そんな事をコイツらに話したくはない。

それに、意味が分からないのは事実なのだから。


「・・・そうですか、もし何か思い出したら教えてください」

「どんな些細な事でも構いませんので」


俺を見る男の目の奥が鈍く光った気がした、俺を疑っているのか?

・・・疑ったって、俺は本当に何も知らねぇ。

何一つ知らされていないんだからな。



手紙もドライフラワーも、鑑識のようなところで調査した後、少しして俺の手元に来た。失踪したとはいえ、ショーもマーカラも犯罪を犯した訳ではない。

物品は、検査して、問題が無ければ当事者に戻ってくる・・・それだけの事だ。


無感動に俺はそれを受け取った。

捨てる気にはならなかった。

ボーっと、花と手紙を眺める日々が虚しく過ぎる。



マーカラは、何を思ってあんな手紙を置いていったのだ?

あの少しズレた天然の文章は、紛れもない「いつもの」マーカラの言葉だ。そこに悪意などあろうはずもない。



「・・・心配するな、か」

「俺は、あいつらに捨てられた訳でもないのかもな」


ふと、二人を探してみたくなった。

俺の前から、黙って姿を消した、その理由が知りたくなったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ