第28話:仮面の裏
第28話:仮面の裏
■神谷 悠 視点
静かに、神谷悠はカメラの前に座った。
今回は、珍しく背景には資料や法律書が積み重ねられていた。
彼はカメラ目線のまま、ゆっくりと語り始める。
「今日は、“いま動けない人”のための動画です。
声を出したかったけど、出せなかった人。
証拠を握っていても、もう遅いと諦めていた人。
そんなあなたに、知ってほしい」
画面に、刑法の条文が引用される。
「暴行罪の時効は、3年。
傷害罪は、10年。
窃盗罪は、7年。
名誉毀損罪は、3年——でも、そこから逆算して“まだ間に合う”人がいる」
「無知は罪だ」
悠の声が少し鋭くなる。
「“証拠がないから無理”“証言してくれないから無理”
そう思って黙ってきたあなた。
でも、時効が切れる前なら、“法”はまだあなたの味方になる」
「加害者たちは、のうのうと生きている。
学歴を得て、社会に出て、“過去は過去”と笑っている。
その間、あなたはずっと“傷”を抱えたままだ」
「でも、“声を上げる”という行為が、まず“あなたを殺さない”方法なんだ」
「死ぬな。過去に殺された自分を、もう一度殺すな」
「今、動け。動くなら、今だ」
「金がない? 今動かなければ明日がない」
「何でもいい まず 動け」
動画の最後には、匿名で相談できる複数の法律支援機関の連絡先と、
悠が個人的に運営する「証言者保護用匿名クラウドBOX」の案内が表示された。
「同志の革命に期待する」
■過去の被害者(大学生・女性・仮名:遥)視点
大学2年の遥は、ベッドに横たわりながら、涙をこぼしていた。
中学時代、男子たちに靴を捨てられ、制服を切られ、写真を撮られてSNSに晒された。
そのことで不登校になり、内申も崩れ、志望校を失った。
でも、加害者たちは全員、県外の有名私大に進学したと聞いていた。
「ずるい……ずっと、わたしだけが“壊れたまま”だった」
だが、神谷悠の動画を見て、彼女は気づいた。
(傷を受けたのは、過去。でも、“声を上げる”のは、今)
遥は記憶を辿り、LINE履歴、当時のメモ帳、母に宛てた手紙をスキャンしてまとめ始めた。
法律相談窓口にも連絡を取り、そして最後にこう投稿した。
《7年前、制服を切られ、写真を撮られ、SNSで笑われた。
わたしの声は“もう遅い”と思っていたけど、
神谷悠の言葉で“今”が始まりました。》
その投稿は、彼女自身の新たな人生の第一歩になった。
■坂本刑事 視点
警視庁。
坂本は神谷悠の動画を見終えた後、眉を寄せながら同僚に言った。
「……奴は、法を理解しすぎている。
“時効ギリギリの加害者”を合法的に追い詰める動画だ。
これはもはや、“告発支援者”の領域を超えている」
上司が問う。
「逮捕の可能性は?」
坂本は短く首を振った。
「証拠の公開、法的根拠の提示、告発の奨励——
全部“合法”の範囲内で設計されている。
だが、“秩序そのもの”を揺るがしているのは事実だ」
彼は最後に呟いた。
「悠の仮面の裏には、“革命者”がいる」
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