第27話:命令だ動け
第27話:命令だ動け
■神谷 悠 視点
「彼らは“人間”ではなかった。
だから、“人としての対話”が通じなかったんだ」
神谷悠は、新たな動画の冒頭でそう語った。
背景は黒。照明も最小限。だがその声には、明確な“鋭さ”があった。
「“やり返すな”“話せばわかる”なんて言葉に、もう騙されるな」
「お前を傷つけているやつらは、獣だ。
ただの動物。それ以上でも、それ以下でもない」
「ならば、対話ではなく、“行動”だけが通じる。
行動しなければ、いつかお前は殺される。
“社会的に”も、“精神的”にも、そして時には“物理的”にも」
悠の目は鋭く光り、声には怒気さえ宿っていた。
「録音しろ。動画を撮れ。晒せ。
名前を書け。顔を出せ。——“お前”を生かすのは、“お前の手”だ」
「……お願いじゃない。“命令”だ」
動画の最後には、こう締めくくられていた。
「“やられる前に動け”。それが、今を生き抜く方法だ」
《#お前の命は武器だ》
■慎也(男子高校生)視点
慎也は、狭い自室でその動画を再生しながら、ずっと手が震えていた。
彼の通っている高校では、日常的に暴力と恐喝が繰り返されていた。
教師は見て見ぬふり。親も「やり返すな」と言うだけ。
このまま死ぬんじゃないか——
毎朝そう思いながら、今日まで生きていた。
だが、神谷悠の声を聞いたとき、何かがはっきりと“割れた”。
(そうだ……あいつらは、“人間”じゃなかった)
慎也は机の奥から、昔使っていたICレコーダーを取り出した。
それをポケットに入れ、翌朝から録音を始めた。
3日後。慎也は自分の声でこう呟いた。
「俺はもう、黙らない」
投稿された動画には、教室での暴行、嘲笑、教師の沈黙がすべて収められていた。
《加害者たちは、もはや“教育”の対象ではない。
俺が、俺のために“行動”する》
神谷悠は、投稿されたその動画に“いいね”を押した。
■坂本刑事 視点
警視庁捜査一課のモニター室。
坂本は神谷悠の最新動画と、それに影響された“慎也”の投稿を食い入るように見ていた。
「また一人、声を上げた。
でも……これはもはや、ただの“啓発”じゃない。
彼の言葉は、“扇動”に変わってきている」
部下が不安げに尋ねた。
「これ……取り締まれますか?」
坂本は黙った。
そして呟いた。
「神谷悠は、“死にかけている奴”にしか届かない言葉を投げてる。
それは“正義”じゃない。“最後の救命索”だ。
……俺たちが届かない領域で、彼は“神”になりつつある」
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