第24話:倒れる影
第24話:倒れる影
■篠田家 視点
五月の空は晴れていた。
だが、篠田家には陰鬱な空気が満ちていた。
篠田浩一の父・篠田健介は、書斎に一人こもり、机の上に並べられた新聞記事とSNSの画面を交互に見つめていた。
「……浩一、お前は……」
記事には、次のような見出しが踊っていた。
《加害者の家族、再び炎上 “篠田母の自傷と録音”拡散中》
《神谷悠、次の投稿で“父の証言も記録済み”と発表か》
健介の手は震えていた。
妻が精神を病み、自傷まで追い込まれたあの夜、彼はただ見ていただけだった。
いや、見て見ぬふりをしていた。
息子を守るために、罪から目を逸らした。
そして今、その選択の代償として、彼は社会から“共同加害者”として断罪されていた。
PCの横には、神谷悠の投稿が開かれていた。
「篠田の母が叫んでいた。『あの子は指示されると断れない子なんです』と。
……父親は、その声をどう聞いたのだろう?」
健介はもう一度、画面を見つめた。
そして、ゆっくりと机の引き出しを開け、ノートを取り出す。
そこに、震える手で数行の文字を記した。
「息子のしたことを、父として受け止められなかった。
だが、今、ようやく理解した。
神谷悠、君の声が、俺を目覚めさせた。
……これは、俺の責任だ」
■神谷 悠 視点
悠の元に届いた情報提供メールには、篠田健介の遺書の写しが添付されていた。
「やっと、“命”で償ったか」
悠は呟いた。
すでに現地では深夜。彼は薄暗い部屋で、次の動画の台本を書き上げていた。
画面には“録音済み”の篠田父の独白、入院前の篠田母の言葉、そして篠田浩一の表情を切り取った動画のサムネイル候補が並んでいた。
「家族が崩れた。それで初めて、“罪”が社会の形を持った。
それまでは、ただの“逃避”だった」
悠は静かに、台本の最後にこう書き加えた。
「今、少しだけ“音”が静かになった気がする。
……これで、“影”はひとつ、倒れた」
■坂本刑事 視点
警視庁捜査一課の一室では、神谷悠の最新投稿に関する緊急分析会議が開かれていた。
坂本刑事は資料を手に立ち上がる。
「神谷悠が投稿した“遺書の写し”ですが、筆跡鑑定と報道された現場からの情報が一致しました。
篠田健介は、神谷の投稿を見た数時間後に自殺した可能性が高い」
捜査班の若手が呟く。
「……まるで予言のようですね。次に誰が倒れるのかを、あらかじめ彼が“知っている”」
坂本は首を横に振る。
「違う。予言じゃない。あいつは“計算”してる。
誰が崩れるか、いつ崩れるか、その順番とタイミングを冷静に見極めて、最も“衝撃が強い”瞬間を選んで投稿している」
「殺してはいない。けど、限りなく近い」
会議室に沈黙が落ちる。
「弁護士の野々村氏からも連絡があった。
『最近、尾行されているような気がする』と。
——おそらく、加害者側の一部が“悠に直接接触しようと、弁護士を襲う準備をしている”」
坂本の言葉に、全員が顔を上げた。
「動くべき時が近い。
神谷悠は、次の“崩壊”が始まるその前に、自分自身を“次の裁判官”にしようとしている」
■ナレーション
その夜、SNSには、また一つ静かな“墓標”が建てられた。
《篠田健介氏、自ら命を絶つ。遺書には「父として、息子の罪を認める」と》
それを引用する形で、悠は投稿を行う。
「これで、“命”で償った。
製造者責任を果たしたと、僕は判断する」
「それでも、“やりすぎだ”と言うなら、聞こう。
彼らが五体満足で生きていたことが、“反省”のなさの証拠だ。」
そして投稿の最後に、次の言葉が添えられる。
《影がひとつ倒れた。さて、次はどの光を断つか》
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