第23話:命の価値
第23話:命の価値
■神谷 悠 視点
「人は、生きているだけで罪を重ねるのかもしれない」
神谷悠は、動画の冒頭でそう語った。
背景は暗闇。照明は一つ。顔は隠され、ただ声が画面を支配する。
「僕は、命の価値を問いたい。
被害者が人生を奪われ、加害者が日常を取り戻す。
この社会は、それを“妥協”と呼んでいる」
「けれど、“妥協”は正義じゃない。
僕は、彼らが生きている限り、死に続けている。
それを“生きている”とは言わない」
動画の後半には、監視カメラの記録映像が挿入される。
加害者の親たちが病院に通い、薬を受け取り、夜にひとりで泣く姿。
だが悠は、その映像の横に“冷静なナレーション”を重ねる。
「泣くのは自由だ。だが、誰かを泣かせた者の涙が、免罪符になることはない」
「償いとは、相応の“対価”だ。金でも、言葉でも足りない。
……ならば、命でしか埋まらないのでは?」
最後に、彼はこう締めくくる。
「僕は今、“探偵”を雇い、加害者の親たちの“最期”を記録している。
自殺の現場。絶望の表情。誰も見なかった“結末”を、僕は公開する」
■野々村弁護士 視点
「神谷くん、これはやりすぎだ」
弁護士・野々村匠は、明確な怒気を含んだ声でZOOM越しに言い放った。
その声に、悠は微動だにせず答える。
「どこがですか?」
「“自殺の現場を記録する”なんて言葉、脅迫として扱われてもおかしくない。
君は、今までは“記録者”の立場に留まっていた。
だが、その一線を超えたら——“加害者”だ」
「……僕は、ただ真実を見せるだけです」
「真実でも、それをどう扱うかは“倫理”の問題だ。
君は今、その倫理すら超えようとしている」
しばらく沈黙が続いた。
やがて悠は呟く。
「僕は……もう“倫理”なんて信じていません。
あの人たちは、“倫理”で人を助けてくれなかった」
野々村は、それ以上、何も言えなかった。
■警察・坂本刑事 視点
警視庁内部。緊急の会議室に刑事たちが集まる。
中心には、神谷悠の最新動画の抜粋と、彼が現在追跡している対象者のリストが貼られていた。
坂本刑事は立ち上がり、発言する。
「神谷は、自らの行為を“報道”と称している。
だが今回は明確に“自殺を誘発する可能性”がある。
これはもはや、情報公開ではなく、“心理的攻撃”に近い」
別の捜査員が手を挙げる。
「しかし、明確な“自殺教唆”の証拠がない限り、動けません。
実際、彼は“自分で殺す”とは言っていない」
「その曖昧さが、“最大の武器”だ」
坂本は拳を握った。
「俺たちは、“人が死んでから”でないと動けないのか?
彼はそれを知っていて、ギリギリのラインを突いてくる」
会議室の空気は重く沈む。
何か一つでも間違えば、神谷悠という“亡霊の記録者”が、社会そのものを変えてしまう。
坂本は最後にこう締めくくる。
「もし、次に誰かが死んだとき——
俺は、神谷悠を“明確な脅威”として扱う。それが、例え“正義”の仮面を被っていても、だ」
■ナレーション
その夜、神谷悠のSNSに新たな投稿が上がる。
《命の重さを、世間が測れないなら——僕が測って見せよう》
《裁く者に、顔はいらない。ただ、記録と、覚悟があればいい》
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