第18話:絶縁
第18話:絶縁
■財前家 視点
重厚な応接室の空気は、もはや“静寂”とは呼べなかった。
財前昂はソファに崩れ落ち、虚ろな目で一点を見つめていた。
その正面には、白髪の男——財前家の現当主にして、昂の祖父が静かに立っていた。
「お前には……一族の名を背負う資格はない」
言葉は淡々と、だが冷酷に突き刺さった。
「脱税で捕まったお前の父。
暴行に関わりながら“逃げる”ことしか考えていないお前。
家の名に泥を塗り、世間に顔向けできなくした罪は重い」
昂は何も言えなかった。
部屋の隅には、焼却を待つ書類が山積みになっている。
過去の推薦状、財前グループの広報資料、そして自分の“学歴の裏付け”となっていた買収記録——
すべてが“神谷悠”によって暴かれた。
大学からは除籍処分の通知が届き、父の会社はすでに破産申請を出した。
「……俺、何もしてない。俺だけじゃないのに……」
その呟きに、祖父は眉一つ動かさなかった。
「“何もしていない”ことが罪なのだ。止めようとしなかった。沈黙を選んだ。
ならば、これが“対価”だ。——今日限りで、絶縁する」
その言葉が告げられたとき、昂はようやく理解した。
本当の地獄は、“誰にも繋がれなくなること”だということを。
■野々村弁護士 視点
東京・霞が関、野々村法律事務所。
弁護士・野々村匠は、書類をまとめながら、海外とのZOOM接続を準備していた。
画面には、マスク姿の神谷悠が静かに現れる。
「神谷さん、今夜の報道、確認されましたか?」
「はい。財前家からの“正式な絶縁通告”……確認しました。
彼は、もう家族にも居場所を失った」
野々村は短く息を吐いた。
「正直、法的には……もう十分に報いを受けている者も出てきています。
ここで手を止める、という選択肢も……一つの正義です」
その提案に、悠の目元は一瞬揺れたように見えた。
「……それは、あなたが“弁護士”だからそう言えるんです」
「違います。私は“あなたの代理人”だから言っている。
正義と復讐の境界線は、あなたの中で、すでに消えかけているように思えるんです」
沈黙。
悠はカメラの向こうで、拳を強く握った。
「彼らは、僕の目を潰し、人生を壊した。
それを“途中でやめる”というのは、“それでも仕方なかった”と認めることになる」
「では、永遠に裁き続けるのですか? あなたは“誰に”終わりを告げられるのか」
悠はその言葉に何も返さず、画面の電源を切った。
野々村は小さくため息をつきながら、席を立つ。
彼の視線は、壁に飾られた法の女神・テミス像に向けられていた。
「正義は、人の手で振るうには……重すぎる」
■ナレーション
その夜、財前昂は酒と薬に酔い、自宅の一室で意識を失った。
救急搬送されたが、命に別状はなかった。
しかし、回復してもなお、彼の“社会的命”は戻らない。
ネットには新たなタグが現れる。
《#製造者責任》《#絶縁された加害者》
そして、神谷悠の次の投稿は、ただ一言——
「血筋でも、逃れられない。それが、“因果”というものだ」
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