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第17話:守るべきもの

第17話:守るべきもの

■橘 結衣 視点


久しぶりに晴れた昼下がり。

橘結衣は自室のベッドに腰を下ろしながら、弟・高城遼の日記を手にしていた。


母が遼の部屋を片づける際に見つけたそれは、彼が高校から大学時代にかけて綴っていたものだった。

普段の遼は多くを語らなかった。

自信家で、口数も多く、グループのリーダーのように振る舞っていた彼が、こんなふうに日々の想いを記していたことに結衣は驚きを隠せなかった。


その一節。


《神谷が俺を見るたび、心がざわつく。あいつは何も言わない。でも、俺は知ってる。俺がやってることが、“本当は間違ってる”って》


《でも、誰かが止めなきゃ、俺は止まらない。……誰か、俺を止めてくれよ》


ページを捲る指が、わずかに震えた。


「遼……」


弟が心のどこかで罪悪感を抱き続けていたこと。

そして、今もなお“沈黙”の中にいること。

結衣は苦しんでいた。

何度も悠にメッセージを送った。が、返事はなかった。


(お願い……これ以上、弟を殺さないで)


彼女の瞳には、静かに涙が滲んでいた。


■加害者グループ視点(芹沢翼・黒瀬勇人・一ノ瀬光・高城遼)


都内の古びたシェアオフィス。

加害者グループのうち、主要な4人が顔を揃えていた。

記者会見の反響は予想以上に悪く、「保身的」「誠意がない」「棒読み」とSNS上で非難が集中した。


「もう、全部終わったな……」


芹沢翼は肩を落として呟いた。

一ノ瀬光はふてくされたように机に足を乗せ、ペットボトルを弄んでいる。


「なんでこんなに叩かれんだよ。ちゃんと謝ったじゃん。謝って済まねーとか、どこまで求めんの?」


「謝る内容が薄っぺらすぎたんだよ、ボケが」


黒瀬勇人の苛立ちは隠せなかった。

「神谷にとっての“誠意”なんて、もう謝罪じゃねぇ。潰すか、潰されるか、それだけだ」


「だから言ったろ、もっと攻撃的に出た方がよかったって」


一ノ瀬の主張に、芹沢が反発した。


「攻撃しても、どうせまた切り取られて反撃されるだけだ。こっちは下手に動くと一生ネットに晒されるぞ」


そこで、黙っていた高城遼がついに口を開いた。


「……もう、誰も責任なんて取れないんだよ」


その言葉に、場が凍りつく。


「俺は……俺たちはもう、詰んでる。誰かが“俺たちを止める理由”を与えなきゃ、このまま潰れるだけだ」


黒瀬が嘲笑う。


「何だよ、今さら“良心”に目覚めたってか?」


「違う。俺はただ……これ以上、誰かの人生を壊したくない」


「じゃあ、お前が全部かぶれよ」


黒瀬の言葉に、遼は黙った。


その時、芹沢が立ち上がった。


「……なあ、もうやめようぜ」


全員が顔を上げる。


「反撃とか、攻撃とかじゃなくてさ。俺らがやってきたこと、一度ちゃんと認めるしかねえよ」


「ふざけんなよ芹沢、お前、俺らと一緒に——」


「一緒だったからだよ!」


芹沢の声が部屋に響いた。


「ずっと、“ただの悪ノリ”だと思ってた。でも違った。神谷は……本当に壊れてる。壊したのは俺たちだ。だから、せめて……これ以上は誰も壊したくねぇんだよ」


その言葉に、黒瀬は何も言えなくなった。


静まり返る部屋の中で、高城遼が再び呟いた。


「俺、神谷に会いたい」


「……何?」


「謝るとかじゃない。“ちゃんと話す”。一度もしてこなかっただろ?」


芹沢と一ノ瀬が互いに顔を見合わせた。

黒瀬は何か言いかけたが、結局何も言わずに、煙草に火をつけた。


■ナレーション


一枚岩だったはずの“加害者グループ”は、今や亀裂だらけだった。

正面から謝罪しようとする者。

反撃を諦めずに策を練る者。

沈黙と苦悩の中で、何もできずにいる者。


その中で、“誰が何を守ろうとしているのか”。

それぞれの答えは、違っていた。


だが確実に——“分裂”は、進行していた。

お読みいただきありがとうございます。


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