第16話:遠隔裁判
第16話:遠隔裁判
■警察・弁護士側視点(坂本刑事・野々村弁護士)
裁判所の仮設会議室。
照明の明るすぎる部屋には、パソコン、スクリーン、マイク、そして証人席が簡素に配置されていた。
これは異例中の異例——神谷悠が“日本に帰国せずに出廷”するための、オンライン遠隔裁判だった。
坂本刑事は、裁判前に弁護士の野々村と小声で確認を取る。
「今日が初出廷か……向こうの反応は?」
「問題なく接続できます。神谷さんは現地時間の早朝に備えて待機しているとのことです」
「……顔は出すのか?」
野々村は少しだけ間を置いた。
「マスクとサングラスは外さないそうです。『表情ではなく言葉で語る』とのこと」
坂本は納得したようにうなずいた。
「まあ、彼の発信を見てれば……その方が“神谷悠らしい”」
部屋のスクリーンが点灯する。
音声が繋がり、ノルウェーの片隅の部屋から、モノトーンの背景に座る神谷悠が現れる。
カメラ越しの彼は一切動じず、静かに一礼した。
「……神谷悠、出廷します」
裁判は開始された。
■加害者グループ内視点(黒瀬・芹沢・一ノ瀬・早乙女真白)
裁判の裏で、都内某所のラウンジに、主要な加害者たちが再び顔を合わせていた。
大画面で中継される裁判の様子を無言で見つめる中、空気は重く張りつめていた。
「……見ろよ、あの態度。“自分が裁く側”だって顔してる」
黒瀬が低く呟く。
一ノ瀬はスマホを弄りながら、いつもの軽薄な笑みを浮かべた。
「でもさ、あいつがどんだけ喋ろうと、結局“顔出ししない”んだろ?法廷でも。裁判官だってさすがに疑い始めるって」
芹沢は眉間にしわを寄せた。
「いや、それが逆に“慎重な被害者”って扱いされる可能性もある。今の世論は“晒す方が悪”って空気だからな」
黒瀬が苛立ちを込めて言い返す。
「だったらどうすんだよ。全部認めて、情状酌量でも狙うか?」
「それは選べないって……」
芹沢がため息をつく。「俺の親父の会社、もう傾きかけてる。俺まで潰れたら、本当に終わる」
「じゃあ、今さら何ができるんだよ?」
その問いに、沈黙が落ちた。
だがその時、真白が静かに口を開いた。
「“外から崩す”しかない」
全員の視線が彼女に向く。
「悠は“法廷の場”を制御してる。でも、私たちが“外”で“世論”を動かせば、その構造は崩せる」
一ノ瀬が訝しげに聞く。
「つまり……裏から記者に“噂”流すとか?」
「それだけじゃ足りない。“新しい被害者”が必要なの。悠が過去に何かをした、という“新証言”を用意するのよ」
黒瀬の顔に、狂気じみた笑みが浮かんだ。
「捏造でもいいってことか。……悪くねえな」
芹沢が制止するように言った。
「それ、本当にやるのか?また取り返しがつかなくなるぞ」
「とっくに取り返しなんかつかねえよ、芹沢」
黒瀬の声は低く、重かった。
真白の目は冷たく澄んでいた。
「“正義”には、もう付き合ってられない」
■神谷 悠 視点(裁判中)
裁判の進行が一時停止された間、悠は一人モニター越しに椅子へ深く腰を下ろしていた。
その表情は読めず、遮光されたサングラスの奥に感情はなかった。
弁護士からのチャットが表示される。
【野々村】
《加害者側が“捏造証言”を準備しているという情報が入りました。慎重に対応を》
悠はそれを読んで、指先でゆっくりとキーボードを叩いた。
——「構わない。次は“裁判外”でも裁く。」
次の手は、すでに彼の中で動き始めていた。
お読みいただきありがとうございます。
よろしければ、下の☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると大変励みになります!




