第13話:加害者たちの反撃
第13話:加害者たちの反撃
■黒瀬 勇人 視点
雨が止んだ東京の夜。
黒瀬勇人はスマートフォンを片手に、自室のデスク前で神経質に煙草を吸っていた。
テレビは無音のまま、報道番組のキャスターが神谷悠の“義眼告白”のシーンを繰り返している。
「被害者ヅラ、もういい加減にしろよ……」
彼は吐き捨てるように呟き、傍らのノートパソコンを開いた。
画面に映るのは、自ら編集した動画データのタイムライン。
そこには、大学時代のとあるシーンが切り取られていた。
——神谷が怒鳴り返し、机を蹴り飛ばす姿。
——黒瀬を指差しながら、「いい加減にしろ」と叫ぶ声。
「これを“あいつがキレて暴れた”ように見せれば、被害者の“本性”として成立する」
そう、一ノ瀬が言った。
芹沢は渋い顔をしていたが、「ここまで来たらやるしかねえだろ」と最終的には黙認した。
黒瀬はSNSの偽アカウント群を駆使して、動画の拡散計画を立てていた。
・正義感を装ったアカウントで「実は神谷も暴力的だった?」と問いかける
・被害者・加害者を相対化する風潮を醸成
・専門家風アカウントで「感情的な言動はトラウマの加害性の証左」と注釈をつける
すべては、“神谷悠”という人物の“無垢性”を崩すための、巧妙な心理戦だった。
そして今夜、いよいよ第一弾の投稿を決行する。
「お前が“裁く側”に立ってると思ってるなら……崩してやるよ、その玉座」
黒瀬は冷たい笑みを浮かべ、動画投稿ボタンを押した。
タイトル:《【内部告発】“神谷悠”の裏の顔。被害者ではなく、加害者だったのでは?》
■神谷 悠 視点
悠は静かにモニターの端で通知音が鳴るのを確認した。
「拡散中」「炎上開始」「トレンド上昇」——そのすべてが、悠の予測通りに動いていた。
(黒瀬、お前が出してくるのはその動画か)
悠はすでに“黒瀬の反撃”を予測していた。
それどころか、黒瀬の使った偽アカウント群を事前に割り出し、仕掛けを組み込んでいた。
例えば——
拡散に使われた“正義感を装ったアカウント”のひとつが、実は悠が以前“買収済み”だった中古アカウントであり、投稿後30分で内部情報が自動的に抜き取られる設定になっていた。
そして、そこから得たIPアドレスや端末情報が、そのまま“黒瀬の身元”に直結する証拠になるよう設計されていた。
「反撃が来ない戦いに意味はない。だが、“誘導された反撃”は、ただの自滅だ」
悠は、反撃動画への“返答動画”の収録を開始する。
カメラをセットし、背景を黒一色に設定。
そこに、悠の姿はシルエットだけが浮かび上がっている。
「皆さん。僕が“怒っていた”こと、それがどうして問題なのでしょうか?」
彼は冷静に、しかし時折激情を込めた口調で語った。
「黒瀬勇人が投稿した動画——あれは、僕がナイフを突きつけられ、髪を燃やされた直後のものです。僕は彼らに『やめろ』と叫んだ。それが怒りなら、誰だってそうなる」
動画内で、悠は当時の“完全版映像”を開示する。
ナイフ、笑い声、黒瀬の挑発、一ノ瀬の笑い——そして、悠の叫び。
「これが、真実の順序です。歪められた切り取りに、意味はない」
映像の最後には、黒瀬が一瞬カメラに向かって「これ、バズるっしょ?」と呟くシーンが挿入されていた。
悠は言葉を重ねる。
「正義は、語らなければ奪われます。だから僕は語る。次に、語るべきは——“お前”だ」
そして、画面に現れる黒瀬の実名と顔写真。
「この男が、反撃のつもりで投げた石は、自分の頭を砕いた」
動画は10分以内に、再生数100万を突破。
SNS上では、「反撃失敗」「神谷強すぎ」「黒瀬終わった」がトレンドに上がった。
■ナレーション
加害者たちの“反撃”は、すでに悠の掌の上だった。
怒りや同情、真実と嘘。
そのすべてが、戦略の駒にされていた。
そして悠は次の駒を指し示す。
「黒瀬勇人、お前が開いた“自爆スイッチ”の結果……楽しみにしてるよ」
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