第11話:報道の嵐
第11話:報道の嵐
■鈴木アナウンサー 視点
深夜のニューススタジオで、鈴木明美アナウンサーはカメラの向こうに厳かな表情を向けていた。
「…こちら7月15日深夜の報道ステーションです。本日、加害者とされる大学生グループをめぐり、被害者の“神谷悠”氏が重大な告白を行いました。」
彼女はモニターに切り替わったライブ映像のワンシーンを振り返る。
《やつらのせいで、俺は右目を失った。これが、真実だ》
義眼を手に持ち、ゆっくりとカメラに提示する神谷悠氏の姿。視聴率は瞬く間に跳ね上がり、放送局の社内データでも通常の深夜枠の5倍を記録した。
鈴木アナはニュース原稿を読み上げながら、“加害者側の反撃”について触れる。
「…これを受け、加害者グループ側は『反論動画』の公開をほのめかしています。昨夜、匿名の情報提供者を名乗る者から当局に『神谷氏自身も暴力を振るっていた』とする映像が届けられました。しかし、信憑性は極めて低く、専門家は『編集の痕跡があまりに鮮明』と指摘しています。」
カメラの横に立つプロデューサーからの耳打ちがあり、鈴木は一瞬ピリッと背筋を伸ばした。
「…続いて、加害者側の“悪だくみ”について伝えます。被害学生の痛みを覆い隠すべく、金銭や人脈を駆使し、メディア対応の“封じ込め”を図っていた疑いが浮上しました。」
ここでニュース映像が切り替わる。複数の映像が同時に流れ、芹沢翼の父が週刊紙の編集部に重役を名乗る人物を送り込み、記事掲載を取り消させようとするシーン。高城家の弁護士が一方で「情報操作は違法だ」と突っぱねられ、焦りを隠せない様子。デスクでため息をつく編集者の表情が映し出された。
「…このほか、一ノ瀬光と黒瀬勇人の両名は、報道陣に接触し『取材協力』の名目で裏金を渡そうとした疑いが報じられています。この行為は公職選挙法違反に準じる可能性もあり、警察は捜査の手を広げています。」
鈴木はカメラへと視線を戻す。
「こうした“見えない圧力”に対し、ジャーナリズムの自由を守るべく、各報道機関は一丸となって真相究明を進めています。視聴者の皆様も、情報の真偽にはぜひ注意を払っていただきたいと思います。」
■神谷 悠 視点
スタジオ放送からほどなくして、悠は自身の拠点であるノートパソコンの前に座っていた。画面右上には「報道の嵐」がトレンド入りしたことを示すウィジェットが点滅している。
「…いいぞ。これでメディアも動いた」
彼はコーヒーを一口すすりながら、次のスクリプトを書き始める。
——《記者会見を開いた鈴木アナ、その裏の事情をご存じですか?》
——《封じ込めを図った高城家の内通者情報、近日公開》
悠は、あらかじめ用意してあった内部文書をひも解く。そこには、鈴木アナの所属放送局を通じて持ち込まれた「取材NGリスト」と、記事チェックを入れさせるための筋書きが詳細に記されていた。
さらに、彼の調査で判明したのは、真白(早乙女真白)の母校教授への口利き依頼、安藤智也が手配していたダミー証言者リストの存在。すべては「被害者神谷の信用を落とし、事件そのものを“もみ消す”ため」の悪だくみだった。
「奴らは…本気で社会の裏側を操ろうとしている」
悠はファイルを複製し、匿名のドラッグ&ドロップ機能を介してメディア関係者へ一斉送信するプログラムを起動した。
「これで、次のターゲットは…“隠れた加害者”だ」
画面には、次に晒される予定の人物リストが並ぶ。白井教授、篠田浩一の父親、そしてまだ世間に名前が出ていない“一連の加害者側協力者”たち。
悠はゆっくりとキーボードを叩く。
「…正義か復讐か、選択の余地はない。あらゆる“悪だくみ”を、白日の下にさらすだけだ」
その言葉とともに、画面上でメール送信ボタンが押され、情報は世界中のジャーナリストへと配信された。
■マスコミ編集部 視点
都内報道各社の編集部では、次々と届く「神谷悠側からのリーク情報」に編集者たちが翻弄されていた。
「これ、本物か?」「ソースは?」「スクープだが、裏は取れない…」
予算や人員をかき集め、緊急の座組みが組まれる。
だが同時に、各社トップからの圧力やスポンサーサイドの根回しも入り乱れ、編集フロアは騒然としていた。
「ジャーナリズムとして、真実を追うのか…それとも企業の顔色をうかがうのか」
編集長の苦悩が、社内のひんやりとした空気を一層重くする。
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