第10話:悪夢の真実
第10話:悪夢の真実
■神谷 悠 視点
その夜、神谷悠はいつものようにパソコンの前に座っていた。
動画投稿サイトのライブ配信機能を開き、照明を調整する。
画面の中央には、マスクとサングラスを外した彼の“顔”が映っていた。
「こんばんは」
その一言で、ライブ配信は始まった。
画面の下には、リアルタイムで視聴者数が増えていく数字が表示される。
3万、5万、9万、12万――。
彼は淡々と語り始める。
「俺は、神谷悠。今日、みんなに見せたいものがある」
そう言って、悠は右手を顔に添え、サングラスをゆっくりと外した。
カメラがズームする。
「これが、俺の“今の顔”だ」
左目は通常通りだったが、右目はやや不自然に輝きを失っていた。
次の瞬間、彼は指でその“目”を摘み取り、静かに外した。
画面がざわめく。チャット欄が一斉に動く。
《え?》《義眼?》《やばい》《嘘だろ……》
悠は、手のひらに乗せた義眼をカメラのレンズにゆっくりと向ける。
「これが、俺があいつらから受けた“証拠”だ」
声は冷たく、怒りも憎しみも抑えられていた。
その静けさが、視聴者の心を逆撫でする。
「大学時代、俺は黒瀬にナイフで脅され、芹沢に押さえつけられ、一ノ瀬に煽られながら、安藤に撮られていた」
「その中で、抵抗したとき、黒瀬がナイフの柄で俺の右目を殴った。結果、網膜剥離と感染症で視力を完全に失った」
彼は義眼をテーブルに置き、続ける。
「ずっと、俺は黙っていた。病院にも通ったし、だれにも言えなかった。だがもう、隠す必要はない」
「顔を晒す気はない。でも、これは晒す価値がある」
義眼を外した空洞から、淡く光るLEDライトがカメラに反射する。
それは視聴者にとって、“痛みの実在”を可視化する象徴だった。
「もう一度言う。“やつらのせいで、俺の眼は失われた”」
画面のコメント欄は感情の嵐だった。
《泣いた……》《加害者絶対許さない》《マジで社会動かせよ》《これ放置した大学どうなってんだよ》
悠はその反応を見ながら、ゆっくりとサングラスをかけ直した。
「でも……途中から、怖くなくなった」
カメラが引いていく。
「崩れていく音を聞くのが、楽しくなったんだよ」
■警察側視点(坂本刑事)
「……見ましたか、これ」
警視庁内の会議室。
坂本刑事はモニターに映し出されたライブ配信の録画を再生していた。
「これが、ただの被害者の言動ですか?」
上司が問う。
坂本は言葉に詰まった。
悠の言葉には一貫して“理性”があった。感情に任せて叫ぶのではなく、丁寧に、冷静に、計画的に話している。
「正直……何も言えません。ただ、これはもう“個人の問題”ではありません」
「被害者であることは間違いないが……我々の手の届かない領域に入っている」
「現場では、“社会的報復犯罪”として分類され始めています」
坂本は椅子に深く座り込む。
「でも……これを止める理由も、言葉も、今の社会にはないんです」
モニターには、悠の最後の言葉が繰り返されていた。
「“楽しかった”――それが真実だとしたら、次は何を楽しみにするのか」
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