第9話:そしてずつ一人
第9話:そして一人ずつ
■加害者グループ視点(一ノ瀬光・芹沢翼・黒瀬勇人)
「やばい……これ、完全に俺だ」
一ノ瀬光の震える手がスマートフォンの画面を握りしめていた。
SNS上にアップロードされた動画には、彼が部屋で薬物を扱う姿が――顔付き、音声つきで――しっかりと映っていた。
《映像提供:匿名。元大学生グループの一人による薬物常習の証拠》
《関係者の証言によれば、“脅迫の現場でも使用されていた”との情報も》
「なんで……誰が持ってたんだよ、これ」
「神谷に決まってんだろうが!」
黒瀬が吠えるように言い放つ。
芹沢はソファに沈み込んでいたが、やがてゆっくりと口を開いた。
「なあ……俺たち、どっかで間違えたんじゃないか?」
その問いに、二人は沈黙した。
だが答えはもう明白だった。悠はただの復讐者ではない。
社会とネット、法律と世論をすべて“武器”に変える冷酷な演出者だ。
「……もう、こっちが先に仕掛けるしかねぇ」
黒瀬が、机の上に出したUSBメモリを指差す。
「これ、安藤が隠してた動画。神谷が泣いてたやつだけど――“殴り返してる”シーンが入ってる。うまく編集すれば、“神谷が暴力を振るってた”って見える」
「でも、それを出したら……完全に戦争だぞ」
芹沢が顔を上げる。
黒瀬は低く笑った。
「もう始まってんだよ。だったら、撃ち返すしかないだろ?」
■神谷 悠 視点
「来たな」
悠はPC画面に表示された“告発系YouTuber”の新着通知を見つめていた。
“内部告発:被害者神谷の“裏の顔”を知っている”というタイトル。
映像内には、彼の学生時代の映像が流れる。だが、それは明らかに編集された偽物だった。
《殴り返してくる“被害者”》
《これは本当に一方的ないじめか?》
悠は表情一つ変えず、その動画を全て視聴した。
「……やはりそう来たか」
彼はフォルダを開く。そこには、編集された元の映像の完全版が保存されていた。
殴り返したように見える瞬間、その前後にはナイフを突きつけられ、反射的に手を振り払う映像がある。
「切り取られた正義は、すぐに嘘になる」
悠は、反証動画の準備に入った。
そして、同時に“次の標的”を定める。
安藤智也。
カメラ役、そして傍観者。
彼が“消えたファイル”と称していたデータは、すでに悠が回収していた。
「次は、“無言の共犯者”を裁く番だ」
パソコンの横には、フォロワーからのDMが殺到していた。
《神谷さん、信じてます》
《これ、マジで正義》
《次は誰ですか?》
悠はその声に答えるように、小さく呟いた。
「一人ずつ、全員だよ」
■警視庁・坂本刑事 補足視点
「また新しい動画か……」
坂本は深いため息をついた。
神谷悠の発信はもはや「社会的事件」として無視できないものになっていた。
「このままだと、加害者も被害者も、両方が崩壊する」
上司にそう進言するも、返ってきたのは冷たい現実。
「被害者とは未だにZOOMでしか接触できない。所在不明のままでは、捜査の軸が立たん」
坂本は、神谷がすでに「人を越えた存在」になりかけていることに気づきつつあった。
■ナレーション
加害者たちの悪だくみは始動した。
だが、それすらも“脚本通り”だったかのように、神谷悠は動き続ける。
そして今夜、新たな動画が投稿される。
《命乞いを録音した、あの夜の真実》
《次は、お前だ》
ターゲットの名前は、まだ明かされていない。
だが、もう誰もが気づいていた。
神谷悠は、“絶対に逃さない”。
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