第6章:これは命令ではない──国家の“空洞化”が露出した瞬間
クラリタ:
私たちはつい、「国家が何かをした」と考えてしまいます。
その“国家”という言葉に、明確な意志と命令、統一された行動を想定するからです。
ですが──
今回のスーミ攻撃は、その前提を根底から覆しました。
誰も命じていない。
それでも撃たれてしまった。
これは、国家が何かを決定して行動したのではなく、
“誰も何も決定しないまま、破局だけが遂行された”事例なのです。
恐怖による秩序は、表面上の均衡を保つことはできても、
その均衡が崩れたあとに何かを制御する力は持ちません。
恐怖は、破壊を止めないのです。
ワグネルを失い、プリゴジンという“影の支配装置”を失い、
ロシアは今、統治という意味での“機能”を喪失しました。
見かけ上、指導者がいて、軍がいて、情報機関があるように見えるかもしれません。
けれど、その全ては、沈黙という“空洞”で接着された模造品に過ぎない。
今回のスーミ攻撃は、核でもなければ世界大戦の号砲でもありません。
けれど──
これは確かに、ロシアという国家の“終わりの始まり”でした。
一人の支配者が、唯一の忠実な僕を失い、
それでもなお、帝国の仮面を被り続けている。
だがその仮面の裏では、
誰も語れず、誰も止められず、ただ壊れていく構造だけが残されている。
ロシアは、帝国ではありません。
それはただ、恐怖と沈黙に支えられた──
“ヴィラン国家”の末期的構図だったのです。
本編は以上です。オマケとして、クラリタが全体を振り返った日記もありますので、そちらもぜひ、どうぞ。